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7月
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

胃癌

Stage IIIの治癒切除胃癌に対する術後補助化学療法としてのS-1+Docetaxel併用療法とS-1単独療法の無作為化比較第III相試験(JACCRO GC-07:START-2)


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Yoshida K, et al.: J Clin Oncol. 37(15): 1296-1304, 2019

 Stage IIまたはIIIのD2リンパ節郭清が行われた胃癌患者に対してS-1を術後1年間内服する群と手術単独群を比較する第III相試験(ACTS-GC試験)で主要評価項目である全生存期間(OS)においてS-1群の優越性が証明された1,2)。また、Stage IIまたはIIIのD2リンパ節郭清が行われた胃癌患者に対してCapecitabineとOxaliplatinの併用療法(CapeOX)を術後6ヵ月施行する群と手術単独群を比較する第III相試験(CLASSIC試験)で主要評価項目である3年無再発生存期間においてCapeOX療法の優越性が証明された3,4)。したがって、Stage IIまたはIIIの胃癌の術後化学療法はS-1単独療法やCapeOX療法が選択されて行われている。しかし、S-1単独療法はStage IIIの患者で効果が不十分であることや、また血行性転移再発率の低下は認めないことから改善の必要性があると考えられる1,2)。Docetaxelは単独療法としてだけではなく5)、S-1またはFluorouracilとCisplatinの併用でも有効性を示している6-11)。本JACCRO GC-07試験は、Stage IIIの胃癌患者の術後化学療法としてS-1単独療法に対するS-1+Docetaxel併用療法の優越性を検証するためにデザインされた無作為化第III相試験である。

 本研究ではD2リンパ節郭清が行われてR0切除となり、病理学的にStage IIIの診断となった20歳から80歳の患者が対象とされた。

 術後化学療法は42日以内に開始された。S-1の用量は体表面積によって決定した(<1.25m2 80mg; 1.25m2〜<1.5m2 100mg; ≧1.5m2 120mg)。S-1+Docetaxel群は、1コース目はS-1を2週投与1週休薬し、2コース目から7コース目まではS-1の2週投与1週休薬に加えて、各コースのday 1にDocetaxel(40mg/m2)を投与した。8コース目以降はS-1を4週投与2週休薬で行い、術後1年まで継続した。S-1単独群はS-1を4週投与2週休薬で術後1年間継続した。

 主要評価項目は3年RFS(無再発生存率:relapse-free survival)、副次評価項目は3年全生存率、5年全生存率、5年RFS、および有害事象であった。

 ACTS-GC試験の結果から、S-1単独群の3年RFSを62%と設定し、S-1+Docetaxel群がS-1単独群の3年RFSを7%上回ることができるかどうか(ハザード比[HR]:0.78)を検出する優越性試験デザインであり、両側検定α=5%、検出力80%、必要な症例数は1,100例とした(各群550例)。層別因子は施設、pStage(IIIA vs. IIIB vs. IIIC)、組織型(分化型vs.未分化型)であった。

 無作為に割り付けられた915人の患者のうち、S-1+Docetaxel群の2人の患者は除外された(Stage Wおよび二重登録)。したがって、913人の患者(S-1+Docetaxel群でn=454、S-1単独群でn=459)がITT集団に含まれた。また、登録終了の1年前である2016年4月30日までに登録された705人の患者のうち、S-1+Docetaxel群およびS-1単独群の未治療患者(S-1+Docetaxel群で10人、S-1単独群で6人)が安全性解析対象集団(Safety Analysis Set:SAS)から除外された。したがって、S-1+Docetaxel群の患者341人およびS-1単独群の患者348人をSASとした。

 2017年4月に2回目の中間解析を実施したところ、主要評価項目である3年RFSはS-1単独群で50%、S-1+Docetaxel群で66%であり、S-1+Docetaxel群で有意に良好であった(HR=0.632、99.99% CI: 0.400-0.998、p<0.001)。この結果から、2017年9月に本試験は効果安全性評価委員会により、有効中止となった。S-1群は無再発生存期間中央値34.5ヵ月であるのに対し、S-1+Docetaxel群は無再発生存期間中央値未到達であった。

 S-1+Docetaxel群の341人の患者のうち、21人(6%)はDocetaxelの投与を行うことができなかった。Docetaxelを投与された320人の患者のうち、234人(69%)が2コース目から7コース目の計6回の投与を行うことができ、94人の患者(28%)は投与量の減量を行った。

 S-1の内服コンプライアンスに関しては、両群で同様の結果が得られた。S-1+Docetaxel群では、303人(89%)が3ヵ月間、262人(77%)が6ヵ月間、226人(66%)が9ヵ月間、168人(49%)が12ヵ月間、S-1の内服を継続した。S-1単独群では、312人(90%)が3ヵ月間、275人(79%)が6ヵ月間、242人(70%)が9ヵ月間、195人(56%)が12ヵ月間、S-1の内服を継続した。また、S-1+Docetaxel群の132人の患者(39%)およびS-1単独群の103人の患者(30%)にS-1投与量の減量が必要であった。

 S-1+Docetaxel群の全Gradeの一般的な有害事象(≧20%)には、食欲不振、貧血、脱毛症、色素沈着、白血球減少症、疲労、流涙末梢神経障害悪心、好中球減少、口腔粘膜炎倦怠感、体重減少、下痢、および高ビリルビン血症があった。Grade 3以上の有害事象は、S-1+Docetaxel群では341人の患者のうち198人(58%[95% CI: 53-63%])、S-1単独群では348人の患者のうち147人(42%[95% CI: 37-47%])に認められた。Grade 3以上の有害事象では、白血球減少(2.0% vs. 22.6%)、好中球減少(16.1% vs. 38.1%)、発熱性好中球減少症(0.3% vs. 4.7%)が、S-1+Docetaxel群で多く認められた。

 主な最初の再発部位は腹膜、血行性、リンパ節であった。S-1+Docetaxel群ではS-1群に対し血行性(5.3% vs. 9.8%)、リンパ節(4.8% vs. 11.3%)は有意に低率であったが、局所(0.4% vs. 0.4%)、腹膜(9.3% vs. 12.9%)では再発率に違いは観察されなかった。

 サブグループ解析では、年齢、性別、Stage、腫瘍径(T)、リンパ節(N)、組織系、PS、手術法など特定の集団との明らかな交互作用は認められなかった。

 以上より、Stage IIIの胃癌患者の術後化学療法としてS-1+Docetaxel併用療法は標準治療として推奨されることが示された。


日本語要約原稿作成:JCHO九州病院 血液・腫瘍内科 上野 翔平



監訳者コメント:
S-1+Docetaxel療法がpStage III胃癌に対する術後補助化学療法における本邦での標準治療に

 治癒切除後のpStage II/IIIの胃癌に対する術後補助化学療法は、本邦で実施されたACTS-GC試験で有用性が証明されたS-1単独治療が標準治療として位置づけられている(胃癌取扱い規約 第13版)。ただし、サブセット解析においてS-1はStage IIにおいて良好な成績が得られたのに対し、Stage IIIA/IIIBとStageが進むにつれてハザード比の点推定値が大きくなり、治療効果が落ちる可能性が指摘されてきた(Stage別HR − Stage II: 0.570、Stage IIIA: 0.629、Stage IIIB: 0.712)。一方で、韓国を中心に実施されたCLASSIC試験においては、pStage II/IIIを対象に手術単独に対するCapeOX療法の有用性が検証された(UICC第6版)。その結果、Stage別に一定の傾向はみられず、特にStage IIIBにおいて良好なHR=0.52を示した。S-1単独治療とCapeOX療法について、直接比較した結果はないものの、サブセット解析結果の違いから使い分けについての議論がなされてきた。

 今回、S-1の治療効果が比較的不十分と考えられるpStage III(胃癌取扱い規約 第14版)を対象に、Docetaxelを併用することでどの程度の効果を示せるかが大変注目されていたなか、2018年のASCOでoral発表された。結果は記載の通りであるが、主要評価項目である3年RFSでHR=0.632と大きな差を認めたことは称賛に値する。また、Stage別解析においてもHRはStage IIIA: 0.524、Stage IIIB: 0.614、Stage IIIC: 0.693という結果であり、よりStageが進んだ集団においても明らかな併用効果を示した。OSの結果はimmatureであり今後の発表を待たねばならないが、S-1+Docetaxel療法はpStage III胃癌に対する術後補助化学療法における本邦での標準治療として位置づけられるものと考える。

 2019年のASCOでは、試験デザインは異なるもののpStage II/IIIを対象に、S-1単独治療に対するOxaliplatinの併用効果が示された(ARTIST 2試験)12)。今後はDocetaxelとOxaliplatinに関して使い分けが可能かの議論がなされ、免疫チェックポイント阻害剤の追加等を考慮した形での比較試験が望まれる。

  •  1) Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 357(18): 1810-1820, 2007 [PubMed]
  •  2) Sasako M, et al.: J Clin Oncol. 29(33): 4387-4393, 2011 [PubMed]
  •  3) Bang YJ, et al.: Lancet. 379(9813): 315-321, 2012 [PubMed]
  •  4) Noh SH, et al.: Lancet Oncol. 15(12): 1389-1396, 2014 [PubMed]
  •  5) Japanese Gastric Cancer Association: Gastric Cancer 14(2): 113-123, 2011 [PubMed]
  •  6) Taguchi T, et al.: Gan To Kagaku Ryoho. 25(12): 1915-1924, 1998 [PubMed]
  •  7) Yoshida K, et al.: Anticancer Res. 24(3b): 1843-1851, 2004 [PubMed]
  •  8) Yoshida K, et al.: Clin Cancer Res. 12(11 Pt 1): 3402-3407, 2006 [PubMed]
  •  9) Koizumi W, et al.: J Cancer Res Clin Oncol. 140(2): 319-328, 2014 [PubMed]
  •  10) Wada Y, et al.: Int J Cancer. 119(4): 783-791, 2006 [PubMed]
  •  11) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 24(31): 4991-4997, 2006 [PubMed]
  •  12) Park SH, et al.: J Clin Oncol. 37, 2019 (suppl; abstr 4001) [学会レポート]

監訳・コメント:JCHO九州病院 血液・腫瘍内科 牧山 明資

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