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2月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

大腸癌

抗EGFR抗体薬中止後の薬剤耐性クローンの指数関数的減少:抗EGFR抗体薬のre-challengeへの影響


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Parseghian CM, et al.: Ann Oncol. 30(2): 243-249, 2019

RAS遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者は抗EGFR抗体薬により生存期間延長が得られるが、RAS遺伝子変異型の患者では効果は得られない1-4)。また、BRAFHER2MAP2K1MEK)の遺伝子変異は、抗EGFR抗体薬に対して初期耐性を示すバイオマーカーとして知られている5-7)。一方で、血中循環腫瘍DNA(ctDNA: circulating tumor DNA)の測定により分子標的薬の耐性にかかわる分子変化を非侵襲的に検出することが可能となり、抗EGFR抗体薬による効果が得られた患者においても2次耐性にかかわる遺伝子変異の獲得が生じることが報告された。抗EGFR抗体薬の耐性機序におけるRAS獲得遺伝子変異の役割は未だ不明であるが、EGFR遺伝子の細胞外領域(ECD: ectodomain)におけるサブクローナル変異が耐性獲得に関与していることが指摘されている6, 8-12)

 筆者らは選択的・持続的なEGFR阻害がない状態においてはKRASおよびEGFR遺伝子変異クローンは減少することを報告しており13)、それにより抗EGFR抗体薬への感受性が回復すると考えられる。この仮説はこれまでの抗EGFR抗体薬のre-challengeの有効性に関する報告を支持するものであるが、未だ検証はされていない。

 単施設コホートとして、MD Anderson Cancer Center(MDACC)で2014年6月から2017年9月の間に抗EGFR抗体薬により治療を受け増悪したRAS/EGFR/BRAF遺伝子野生型大腸癌患者のうちGurdant360®を用いてctDNA測定を受けた135例をレトロスペクティブに検討した。

 単施設コホートの検討から得られた結果を検証するための外部コホートとして4,465例が集められ、そのうち2014年6月から2017年12月の間に2回以上、同一の次世代シーケンシング(NGS)でctDNA測定が行われたのは496例であった。Gurdant360®による検査を受けた別の374例のデータ(295例が抗EGFR抗体薬による治療歴あり、79例が治療歴なし)を用いて抗EGFR抗体薬の治療歴に関するロジスティック回帰分析を行い、@RAS遺伝子におけるサブクローナル変異(相対変異遺伝子頻度[rMAF: relative mutant allele frequency]が50%未満と定義)、AいずれかのEGFR遺伝子変異、B同時に存在する複数のRAS遺伝子変異の3因子が、抗EGFR抗体薬の治療歴を予測する因子であった。外部コホートは抗EGFR抗体薬の治療歴に関する情報がないことから、496例のうち、これら3因子のうち1因子以上を有する73例を「抗EGFR抗体薬の治療歴を有する」症例として評価対象とした。さらに別の93例のコホートを用いて、前述の3因子による抗EGFR抗体薬の治療歴の予測能についての検証を行った。

 半減期を評価するためのコホートとして、MDACCで抗EGFR抗体薬を含む治療の不応後に抗EGFR抗体薬のre-challengeが行われたRAS/BRAF遺伝子野生型大腸癌患者、80例を検討した。全ての患者は抗EGFR抗体薬による初回治療において増悪が確認されており、有害事象中止は認めなかった。

 rMAFは(RAS/BRAF/EGFR/MAP2K1の変異遺伝子の頻度)/(何らかの変異遺伝子のうち最も高頻度なものの頻度)で定義され、標的遺伝子を血中に放出している腫瘍細胞の割合に近似すると考えられる。まず優勢な変異遺伝子(初回の検体でrMAFが最も高い変異遺伝子)に対して解析を行った後、既知の全ての耐性機序に関する解析を行った。遺伝子増幅に関する検討は行っていない。RASおよびEGFR遺伝子変異の指数関数的減少についてはGraphPad Prism version 7.03を用いて非線形フィッティングのため1フェーズ減衰解析を行った。外部コホートとの相関についてはMann-Whitney検定を行った。

 臨床情報として抗EGFR抗体薬re-challenge開始時の年齢、人種、初回診断日・ステージ、KRAS/NRAS/BRAF/MAP2K1/PIK3CA遺伝子変異、Microsatellite status、前治療歴、原発巣の占居部位などが収集された。

<単施設コホートを用いたRASおよびEGFR遺伝子変異クローンの変化に関するモデル式の検討>
 数理モデルを作成したところRASおよびEGFR遺伝子変異のrMAFと抗EGFR抗体薬最終投与からの時間には負の相関を認めたが、APCTP53遺伝子変異については負の相関は認めなかった。RASおよびEGFR遺伝子変異のrMAFの減少は指数関数モデルにおいて最も近似が得られた(RASではr2=0.93、EGFRではr2=0.94)。RASおよびEGFR遺伝子変異の統合解析では半減期は4.4ヵ月であった。個別の解析ではRAS遺伝子変異の半減期は3.4ヵ月、EGFR遺伝子変異は6.9ヵ月であったが、有意差は認めなかった。抗EGFR抗体薬不応時のRAS遺伝子変異のrMAFは10.5%、EGFR遺伝子変異のrMAFは10.6%であった。

<外部コホートを用いたRASおよびEGFR遺伝子変異クローンの減少に関するモデル式の検討>
 抗EGFR抗体薬の治療歴が判明している大腸癌患者374例のデータを用いた検討では、前述した抗EGFR抗体薬の治療歴を予測する3因子のうち1因子以上を認める場合、高い精度で抗EGFR抗体薬の投与歴を予測できることが示された(陽性検査後確率98.3[95%信頼区間93.4-99.6]%、特異度98.7[95.3-99.8]%)。抗EGFR抗体薬の投与歴が判明している別の93例のコホートを用いて検証を行ったところ、同様に高い陽性検査後確率95.1(83.6-98.7)%、特異度92.0(74.0-99.0)%であった。
 外部コホートでは、前述の抗EGFR抗体薬の治療歴を予測する3因子のうち1つ以上を認めた73例を評価対象とした。指数関数モデルに当てはめた解析ではRASおよびEGFR遺伝子変異クローンの半減期は4.3ヵ月であり、単施設コホートと同程度であった。個別の解析ではRAS遺伝子変異の半減期は3.7ヵ月、EGFR遺伝子変異は4.7ヵ月で、有意差は認めなかった(p=0.11)。

<抗EGFR抗体薬のre-challengeにおける奏効割合>
 MDACCで抗EGFR抗体薬を含む治療が2レジメン以上行われたRAS/BRAF遺伝子野生型大腸癌80例の年齢中央値は57歳、抗EGFR抗体薬に不応と判断されてからre-challengeまでの期間(aEFI: anti-EGFR antibody-free interval)中央値は5.1ヵ月(IQR[interquartile range]2.7-10.6ヵ月)、抗EGFR抗体薬による初回治療とre-challengeの無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ5.2ヵ月と3.1ヵ月(p=0.040)、re-challengeにおける奏効割合は23%であった。単施設コホートから得られた半減期(4.4ヵ月)を用いて奏効割合とPFSを層別化し検討したところ、PFS中央値はaEFIが長いほうが良好な傾向にあったが、有意差は認めなかった(aEFI<4.4ヵ月の32例では2.6ヵ月、aEFI=4.4〜8.8ヵ月の20例では4.9ヵ月、aEFI>8.8ヵ月の28例では3.9ヵ月、ログランク傾向検定:p=0.44)。奏効割合はaEFI<4.4ヵ月の症例(16%)やaEFI=4.4〜8.8ヵ月の症例(20%)と比較しaEFI>8.8ヵ月の症例で最も高かった(32%)が、いずれも有意差は認めなかった。

 本検討の結果は、ctDNAによる抗EGFR抗体薬の耐性遺伝子変異のモニタリングの実現可能性と有用性、抗EGFR抗体薬のre-challengeの有用性を支持するものである。また、EGFR遺伝子のECD変異の減少速度とRAS変異の減少速度に差がなかったことは、re-challengeの適応や開始時期を判断するうえで重要な情報である。分子標的薬の中止後に耐性遺伝子が減少する理由としてはいくつかの仮説が立てられており、分子標的薬による強力な選択的阻害がある状況下ではそれに順応した細胞が生き残るが、そうした順応はおそらく限定的であるため分子標的薬中止後は野生型細胞の増殖が急速に進むと考えられる14)。大腸癌では抗EGFR抗体薬の耐性変異にかかわらずMEKやERKが活性化していることが報告されており15)、抗EGFR抗体薬の耐性克服のためMEK阻害薬と抗EGFR抗体薬の併用療法が臨床試験にて検討されている(NCT03087071)。今後のre-challengeに関する臨床試験では、本検討の結果を踏まえて対象症例を選択すべきである。ただし、遺伝子変異の推移には個人差が生じる可能性があり、可能であれば連続したctDNAモニタリングを行い、遺伝子変異を確認していくことが必要になると考えられる。

 本検討のLimitationとしては、外部コホートにおける臨床情報がないため抗EGFR抗体薬による治療を受けたことの直接的な証明ができていないこと、抗EGFR抗体薬のre-challengeが行われた症例の多くで治験薬や殺細胞性抗癌剤の併用が行われていたこと、遺伝子増幅が解析に含まれていないことが挙げられる。


日本語要約原稿作成:石川県立中央病院 腫瘍内科 木藤 陽介



監訳者コメント:
抗EGFR抗体薬使用後の薬剤耐性クローンの指数関数的減少:抗EGFR抗体薬のre-challengeへの影響

 抗EGFR抗体治療に不応後に、抗EGFR抗体の休薬によるRASおよびEGFR遺伝子変異クローンの減衰に関しては不明であった。本論文では、抗EGFR抗体治療最終投与後からRASおよびEGFR遺伝子変異クローンの半減期が3.4ヵ月、6.9ヵ月であることを示した。また、抗EGFR抗体re-challenge治療を施行された80人の大腸癌患者において、抗EGFR抗体の初回治療最終投与からre-challenge治療開始までの期間が長いほど、奏効割合が上昇したことは、今後の抗EGFR抗体re-challenge治療の開始時期を示唆する重要な報告であったと言える。一方で、これらの患者は、抗EGFR抗体re-challenge治療前のRASおよびEGFR遺伝子の状態は検討されておらず、遺伝子変異の有無と治療効果については検討の余地が残る。また、94.3%の患者は何らかの化学療法と抗EGFR抗体re-challenge治療が併用されていたため、純粋な抗EGFR抗体re-challenge治療の効果ではない。さらに抗EGFR抗体の初回治療耐性後に使用された化学療法治療によってRASおよびEGFR遺伝子変異クローンに与える影響は不明なままである。RASおよびEGFR遺伝子変異クローンがどこまで低下すれば抗EGFR抗体re-challenge治療の効果が得られるのかは明確ではない。

 実臨床において、ctDNAからのRASおよびEGFR遺伝子変異は測定できないため、抗EGFR抗体re-challenge治療を施行する場合には少なくとも初回抗EGFR抗体最終投与から4ヵ月程度のintervalを設けることが望ましい。今後の課題として、RASおよびEGFR遺伝子変異のMAFと治療効果の関連、re-challenge治療とのより良い併用レジメンなど、解決すべき問題点は多く残っている。

  •  1) Amado RG, et al.: J Clin Oncol. 26(10): 1626-1634, 2008 [PubMed]
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監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹

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