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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

1月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

胃癌

多種類の前治療歴を有する転移性胃癌患者におけるTrifluridine/Tipiracilとプラセボを比較する
無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(TAGS試験)


Shitara K, et al.: Lancet Oncol. 19(11): 1437-1448, 2018

 胃癌患者の多くは切除不能・転移性疾患であり、全身化学療法が治療の中心となる1)。治療薬としてはFluoropyrimidine、白金系抗癌薬、Trastuzumab、Taxane、Irinotecan、VEGFR-2阻害薬のRamucirumab等が使用されるが2-4)、その有効性は十分とは言えない5,6)。また、本試験の最初のプロトコールが確定した時点で、切除不能進行・再発胃癌患者に対する3次治療は確立されていなかった2,3,7)

 Trifluridine/Tipiracil(FTD/TPI)は、チミジンベースのヌクレオシドアナログであるTrifluridine、およびチミジンホスホリラーゼ阻害剤であるTipiracilからなる新規の経口殺細胞性抗癌薬である。TrifluridineがDNAに組み込まれてDNA機能を阻害し、TipiracilがチミジンホスホリラーゼによるTrifluridineの分解を阻害しTrifluridineのバイオアベイラビリティを高める8-11)。FTD/TPIは第III相試験であるRECOURSE試験の結果に基づき、標準治療に抵抗性の転移性大腸癌に対する治療薬として日本、EU、米国等で承認された12)。FTD/TPIはまた、1レジメン以上の前治療歴のある日本人の進行胃癌患者を対象とした第II相試験(EPOC1201)でも有望な結果を示した。EPOC1201では、全生存期間(OS)は8.7ヵ月であり、病勢制御割合(DCR)は66%であった13)。今回、17ヵ国110施設において国際多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(TAGS試験)が行われた。

 対象は2レジメン以上(Fluoropyrimidine、白金系抗癌薬、Taxane、Irinotecan、HER2陽性の場合にはHER2阻害薬)の化学療法歴がある、組織学的に確認された切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部癌患者であり、18歳以上のECOG PS 0-1の患者が適格とされた。

 患者は地域(日本vs.他国)、ECOG PS(0 vs. 1)、Ramucirumabの治療歴(有vs.無)を層別化因子として、FTD/TPI+BSCとプラセボ+BSCに2:1で割り付けられた。治療は28日間を1サイクルとして1〜5日目と8〜12日目に1日2回FTD/TPI 35mg/m2またはプラセボを投与した。治療は病勢増悪、継続困難な有害事象の出現、患者同意撤回のいずれかが起こるまで継続された。

 主要評価項目はプラセボに対するFTD/TPIのOSの優越性検証であり、ITT集団で解析が行われた。副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(ORR)、DCR、安全性と忍容性、ECOG PS 2以上に増悪するまでの期間、QOLであった。治療効果判定はRECIST v1.1、有害事象判定はNCI-CTCAE v4.03に基づいて行われた。サンプルサイズはOSのHR=0.70を示すために、検出力90%、片側検定の有意水準0.025、必要イベント数384例として設定し実施された。

 2016年2月24日から2018年1月5日の間に、625例がスクリーニングを受け、507例が登録された。FTD/TPI群に337例、プラセボ群に170例が無作為に割り付けられ、FTD/TPI群の335例およびプラセボ群の168例に投与された。2018年3月31日のデータカットオフ時点で、FTD/TPI群の316例(94%)、プラセボ群の165例(98%)が治療を中止し、その主な理由は病勢増悪であった。試験後治療はFTD/TPI群の83例(25%)、プラセボ群の45例(26%)で行われた。FTD/TPI群の11例(3%)およびプラセボ群の4例(2%)に試験後Ramucirumab含有レジメンが施行された。地域分布と患者背景は両群間でバランスがとれており、FTD/TPI群の211例(63%)、プラセボ群の106例(62%)が3レジメン以上の前治療歴を有していた。相対用量強度(RDI)はFTD/TPI群で0.85(SD: 0.15)、プラセボ群で0.89(SD: 0.16)であった。

 OS中央値はFTD/TPI群が5.7ヵ月(95% CI: 4.8-6.2)、プラセボ群が3.6ヵ月(95% CI: 3.1-4.1)であった(HR=0.69、95% CI: 0.56-0.85、片側p=0.00029、両側p=0.00058)。12ヵ月生存割合はFTD/TPI群が31例(21%)、プラセボ群が10例(13%)であった。ECOG PS(p<0.0001)、年齢(p=0.00041)、前治療レジメン数(2 vs. 3以上;p=0.033)、転移部位数(p=0.0014)、そしてHER2ステータス(p=0.016)はOS改善の予後因子であったが、上記因子の調整後もFTD/TPIの治療効果は維持されていた(調整後HR=0.69、95% CI: 0.56-0.85)。

 PFS中央値は、FTD/TPI群が2.0ヵ月(95% CI: 1.9-2.3)、プラセボ群が1.8ヵ月(95% CI: 1.7-1.9)であった(HR=0.57、95% CI: 0.47-0.70)、両側p<0.0001)。6ヵ月時点での無増悪生存割合はFTD/TPI群が37例(15%)、プラセボ群が8例(6%)であった。データカットオフ時点でFTD/TPI群の287例(85%)、プラセボ群の156例(92%)が病勢増悪あるいは死亡していた。

 奏効判定については、FTD/TPI群の290例(86%)およびプラセボ群の145例(85%)で評価可能であった。ORRはFTD/TPI群が4%(95% CI: 2-8)、プラセボ群が2%(95% CI: <1-6)であった(p=0.28)。DCRはFTD/TPI群が44%(95% CI: 38-50)、プラセボ群が14%(95% CI: 9-21)であった(p<0.0001)。ECOG PS 2以上に増悪するまでの期間は、FTD/TPI群が4.3ヵ月(95% CI: 3.7-4.7)、プラセボ群が2.3ヵ月(95% CI: 2.0-2.8)であった(HR=0.69、95% CI: 0.56-0.85、両側p=0.00053)。ECOG PS 2以上への増悪は、FTD/TPI群のうち264例(78%)およびプラセボ群のうち145例(85%)で報告された。

 有害事象はFTD/TPI群の326例(97%)、プラセボ群の157例(93%)で報告された。Grade 3以上の有害事象は各々267例(80%)と97例(58%)で報告された。そのうち頻度が高かったのはFTD/TPI群では好中球減少症(34%)、貧血(19%)、白血球減少症(9%)でありプラセボ群では腹痛(9%)、身体的な健康状態の悪化(9%)、貧血(8%)であった。重篤な有害事象はFTD/TPI群の43%およびプラセボ群の42%に報告された。治療関連死亡は各群1例ずつ報告され、FTD/TPI群では心肺停止、プラセボ群では中毒性肝炎であった。

 有害事象による投与量変更はFTD/TPI群の195例(58%)およびプラセボ群の37例(22%)で報告された。投与量変更の原因となったGrade 3以上の有害事象としては、FTD/TPI群では好中球減少症の85例(25%)、プラセボ群では貧血の3例(2%)が最も高頻度であった。

 有害事象による治療中止はFTD/TPI群の43例(13%)およびプラセボ群の28例(17%)で報告された。中止の原因となったGrade 3以上の有害事象としては、FTD/TPI群では身体的な健康状態の悪化の4例(1%)、血小板減少症の3例(1%)、プラセボ群では食欲不振の3例(2%)、身体的な健康状態の悪化の3例(2%)が高頻度であった。

 以上、多種類の前治療歴を有する切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部癌患者に対して、FTD/TPIはプラセボと比較して有意にOSを改善し、3次治療以降における新たな治療選択肢となり得ることが示された。

日本語要約原稿作成:九州大学病院別府病院 内科 奥村 祐太



監訳者コメント:
胃癌の3次治療の選択肢が広がったが、今後の使い分けに課題

 FTD/TPIは既に大腸癌において広く使用されている薬剤で、忍容性も高く使いやすい薬剤として一般臨床に浸透していることから、胃癌においても今後そのような役割が期待される。しかしながら大腸癌においてRegorafenibとの使い分けが問題となったように、胃癌においてはNivolumabやIrinotecanとの使い分けが今後の課題と言える。奏効割合と病勢制御割合はNivolumabでそれぞれ11.2%、40.3%14)、Irinotecanで3〜18%、22〜55.2%と報告されている15-17)。それらと比較するとFTD/TPIはそれぞれ4%と44%であり、決して秀でた成績ではないことに留意が必要である。一方でOSやPFSのサブグループ解析の結果では、PSや年齢に影響されることなく効果を発揮することが示されており、特に前治療としてIrinotecanが入っていない症例においてハザード比の点推定値は低く有望な結果を示した。有害事象においては血液毒性の発現頻度が高い傾向にあるが、発熱性好中球減少症の発現頻度は2%と良好な忍容性も確認されている。さらに、PS低下が化学療法の継続性やQOLに直結するこの治療ラインの患者にとって、PS 2以上に低下するまでの期間が有意に延長されていることは臨床的に大きな意義を有する。胃癌治療ガイドライン(2018年1月改訂第5版)において、推奨される三次化学療法としてNivolumabはエビデンスレベルA、IrinotecanはエビデンスレベルBとされているが、本試験結果を受けて、FTD/TPIはNivolumabと同様エビデンスレベルAで推奨されると考えられる。現時点で明確な使い分けの線引きは出来ないものの、少なくとも経口摂取が可能な症例においてはFTD/TPIという治療選択肢が一つ増えたことは歓迎されるべきことであろう。

 現在FTD/TPIは大腸癌においてBevacizumabを始めとした併用療法の開発が進んでおり、胃癌においてもこのような併用療法においてより高い効果を発揮することが期待される。特に高齢者を始めとした脆弱性の高い患者に対する治療開発に期待がかかる。

  •  1) Salati M, et al.: ESMO Open. 2(3): e000206, 2017 [PubMed]
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監訳・コメント:JCHO九州病院 血液・腫瘍内科 牧山 明資

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