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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

3月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌

既治療進行胃癌に対するNab-PaclitaxelとRamucirumabの併用療法の第II相試験


Bando H, et al.: Eur J Cancer. 91: 86-91, 2018

 進行胃癌に対する一次化学療法としてはプラチナ製剤とフッ化ピリミジン系薬剤の併用療法が広く用いられている1,2)。二次化学療法としてはDocetaxelやIrinotecan(CPT-11)の有効性がいくつかの無作為化比較試験に基づいて示されてきたが3-6)、溶媒型Paclitaxel(sb-PTX)は第III相試験においてCPT-11と同等のOSを示した7)。またRAINBOW試験は胃癌の二次化学療法において、sb-PTX単剤療法に対するRamucirumab(RAM)の上乗せ効果を検討したものであるが、RAM上乗せ群はsb-PTX単剤よりも優れたOSを示した8)。したがってsb-PTXとRAMの併用療法は、胃癌二次治療における治療法の一つに位置付けられている。

 ナノ粒子アルブミン結合Paclitaxel(Nab-Paclitaxel:nab-PTX)は溶剤としてのヒマシ油やエタノールを用いていないため過敏性反応のリスクが少なく9-11)、かつアルコール不耐患者にも投与可能である。近年施行された無作為化第III相試験(ABSOLUTE試験)ではOSにおいてnab-PTX(毎週投与法)がsb-PTX(毎週投与法)に対して非劣性を示し、ORRやPFSにおいてはむしろ望ましい結果を示した12)。これらの結果に基づき、本試験では一次化学療法不応の胃癌患者において、nab-PTX+RAMの有効性と安全性を評価する目的の第II相試験を施行した。

 本試験は多施設共同オープンラベルの単群第II相試験であり、本邦において12施設が参加した。主な適格基準は、20歳以上、組織学的に切除不能・再発の胃腺癌、フッ化ピリミジン系薬剤を含む一次化学療法後に増悪もしくは術後化学療法最終投与24週以内に再発、RECIST v.1.1に基づく測定可能病変あり、ECOG PS 0もしくは1、十分な骨髄・肝・腎機能あり、と設定した。また主な除外基準は、タキサンもしくはVEGF/VEGFR阻害剤の治療歴あり、grade 2以上の末梢神経障害、最近の血栓症の既往、消化管穿孔、出血、コントロール不良な高血圧、と設定した。

 試験治療のレジメンとしてはnab-PTX(100 mg/m2、day 1,8,15、4週毎)+RAM(8 mg/kg、day 1,15、4週毎)で投与され、増悪もしくは不耐となるまで継続とした。

 主要評価項目はORR、副次評価項目はPFS、DCR、OS、安全性、生活の質(QOL)とした。このうちORR、PFS、DCRはIndependent Review Committee(IRC)による評価を行った。有害事象はCTCAE v.4.03に基づいて評価し、QOLはthe validated Japanese version of the EuroQol 5 Dimension questionnaire(EQ-5D)に基づいて評価を行った。

 ORRの閾値20%・期待値40%と仮定し、片側α=0.05、検出力80%で最低40症例が必要と判断した。本試験が本レジメンの初の試験であることを鑑み、開始後6例の安全性パートを設けた。

 2016年1月〜5月に45例が登録され、うち43例に試験治療が実施された。1例は測定可能病変を有しなかったために、最大解析対象集団より除外した。カットオフ日までに42例中7例は治療を継続しており、観察期間中央値は8.6ヵ月であった。残る35例の治療中止理由は、病勢増悪が34例、有害事象中止が1例であった。治療期間中央値は5.6ヵ月であった。

 ORRの中央値は54.8%[90%信頼区間(CI): 41.0-68.0]であり、主要評価項目を達成した。DCRの中央値は92.9%(95% CI: 80.5-98.5)、PFSの中央値は7.6ヵ月(95% CI: 5.4-8.1)であった。OSに関しては中央値が未達であった。

 治療関連有害事象については、grade 3以上で最も頻度が高かったのは好中球減少33例(76.7%)であり、続いて白血球減少12例(27.9%)であった。発熱性好中球減少症は2例(4.7%)に認められた。末梢神経障害が全gradeで25例(58.1%)に認められたが、いずれもgrade 2以下であった。過敏性反応や投与時反応を生じた例はなかった。RAM関連の治療関連有害事象の中でgrade 3以上であったものとしては、蛋白尿2例(4.7%)、深部静脈血栓症、肺塞栓症、上部消化管出血がそれぞれ1例ずつ(2.3%)であった。消化管穿孔を1例(2.3%)で認めたが、原疾患の増悪によるものと判断された。治療関連死は認めなかった。

 Nab-PTXの減量、中断に至った有害事象は、それぞれ29例(67.4%)、36例(83.7%)の患者に発生した。好中球減少による減量は25例(58.1%)、休薬は30例(69.8%)であった。また、RAMの減量、中断に至った有害事象は、それぞれ4例(9.3%)、18例(41.9%)に発生した。投与中断に至った有害事象報告のうち、最も頻度が高いものは好中球減少症5例(11.6%)であった。RAMの中止を必要とした有害事象の内訳としては、胃出血1例、上部消化管出血1例、消化管穿孔1例、蛋白尿2例であった。Nab-PTXの中止を必要とする有害事象は認めなかった。

 QOLに関してはベースラインのEQ-5Dインデックススコア中央値が0.8592であり、8週、16週、24週、48週での各々のEQ-5Dインデックススコア中央値は0.8494、0.8263、0.8221、0.6554であった。試験治療期間中におけるQOLの低下は認めなかった。

 本試験は胃癌既治療例に対するnab-PTX+RAMの有効性と安全性を評価した初の試験である。ORRは54.8%と主要評価項目を達成した。また有害事象は管理可能な範疇であり大部分の症例で増悪まで試験治療の継続が可能であった。これらの結果よりnab-PTXとRAMの併用療法が本邦の胃癌患者に対して有効かつ安全であることが示唆された。

 他試験との単純な比較には注意を要するという前提の下で議論するのであれば、本試験での結果は前述のABSOLUTE試験におけるnab-PTX単剤療法群(ORR 33%、PFS 5.3ヵ月)よりも良好な結果が示されている。本試験は単群かつ限定的な症例数ではあるものの同様のレジメンでの第II相試験が米国で進行中であり、本試験での良好な結果が支持されることが期待される。


日本語要約原稿作成:慶應義塾大学病院 消化器内科 鈴木 健



監訳者コメント:
一次化学療法不応・不耐の胃癌に対して、nab-PTXとRAM併用療法の可能性が示唆された。

 胃癌の二次治療として本邦でweekly PTX+RAMが推奨される理論的根拠はWJOG4007試験7)とRAINBOW試験8)に因っている。WJOG4007試験は二次治療としてのPTX単剤とCPT-11単剤を比較した試験であったが、OSがPTX 9.5ヵ月、CPT-11が8.4ヵ月と有意差はないもののCPT-11がやや不良、PFS、ORRや三次治療の移行率を鑑みても、二次治療としてはまずはPTXが推奨されるであろうというclinical consensusを得た。また、RAINBOW試験では、PTX単剤に対するRAMの上乗せ効果が確認され、最近の胃癌治療ガイドライン(2018年1月改訂、第5版)においても、weekly PTX+RAM療法は推奨されるレジメンに位置付けられている。しかしながら、PTXは水に難溶性であることから、ポリオキシエチレンヒマシ油(クレモホール®EL)や無水エタノールを溶媒として用いる必要があり、過敏症予防のための前投薬や長い点滴時間、点滴時にインラインフィルターを要するなどの課題があった。

 近年、結果が公表されたABSOLUTE試験12)は、毎週投与法のアルブミン懸濁型Paclitaxel(weekly nab-PTX)の可能性を示した試験である。これまでも3週毎投与のnab-PTXはJ-0200試験の結果によって一定の有効性は確認されていたものの、末梢神経障害や骨髄抑制などの有害事象の程度および発現頻度が高いことが問題視されていた。同試験は、weekly nab-PTX療法が従来のPTX単剤療法に対して主要評価項目であるOSにおいて非劣性であることを示した(weekly nab-PTX群11.1ヵ月、weekly PTX群10.9ヵ月)が、副次評価項目ながらPFSはweekly nab-PTX群で5.3ヵ月と良好であり(weekly PTX群3.8ヵ月)、3週毎投与のnab-PTX療法に対しても有害事象の程度や発現頻度が低いことも示した。これらの試験結果より、weekly nab-PTX+RAM療法の可能性が期待されている中で本試験が実施されたわけである。

 結果の詳細は上記の要約を参照していただきたいが、主要評価項目であるORRは54.8%であり、別試験ではあるもののRAINBOW試験の邦人サブセット13)におけるweekly PTX+RAM群のORR 41.2%、ABSOLUTE試験のweekly nab-PTX群のORR 33%よりも良好な結果であった。またgrade 3以上の好中球減少は76.7%に認められたが、RAINBOW試験のweekly PTX+RAM群でも66.2%(邦人)に認められており、発熱性好中球減少症もweekly nab-PTX+RAM群で4.7%、weekly PTX+RAM群で4.4%と、一定の安全性も示されたと考えられる。比較的良好な有効性を示した要因としては、in vitroの報告ではあるもののnab-PTXは従来のPTXと比較して、血管結合性、血管透過性、組織移行性がそれぞれ有意に高いことが報告されていること14)や、weekly nab-PTX+RAM群はRAINBOW試験でのweekly PTX+RAM群と比較してPTXのdose intensityが高いことも要因である可能性も考えられる。

 本試験の結果、weekly nab-PTX+RAM療法は単群試験ではあるものの一定の有効性と安全性を示したと考えられる。次に出てくる胃癌二次治療における新たな課題としては、weekly PTX+RAM療法とweekly nab-PTX+RAM療法はどちらが良いのか、どのように使い分ければ良いだろうか、という疑問であろう。本試験のみでweekly nab-PTX+RAM療法を全例に適応することは早計であると考えられ、今後企画される無作為化比較試験などの結果が期待されるところである。

  •  1) Japanese gastric cancer treatment guidelines 2014 (ver. 4). Gastric Cancer. 20(1): 1-19, 2017 [PubMed]
  •  2) Smyth EC, et al.: Ann Oncol. 27(suppl 5): v38-v49, 2016 [PubMed]
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監訳・コメント:慶應義塾大学病院 消化器内科 平田 賢郎

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