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10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

DNAミスマッチ修復欠損を有する、もしくはマイクロサテライト不安定性の高い転移性大腸癌に対するNivolumab単剤療法の有効性


Overman MJ, et al.: Lancet Oncol. 18: 1182-1191, 2017

 遠隔転移を有する結腸癌に対してはFluorouracilをベースにした殺細胞性抗癌剤に血管新生因子もしくはEGFRを標的とした薬剤を追加するレジメンが標準治療となっているが、5年生存率は13.5%にとどまるのが現状である1)。特にDNAミスマッチ修復の欠損(dMMR)がある、もしくはマイクロサテライト不安定性の高い(MSI-H)大腸癌は従来の化学療法の効果が薄く、全生存期間(OS)も短い2,3)。dMMR/MSI-Hの大腸癌は突然変異荷重が高いため腫瘍特異的変異抗原の発現も多く、そのため腫瘍に免疫細胞が豊富に浸潤していることが示されている4,5)。これまで行われた4つの第III相試験をまとめたプール解析ではdMMRのある大腸癌は通常の大腸癌と比べてOSが短い(13.6ヵ月 vs. 16.8ヵ月、HR: 1.35[95% CI: 1.13-1.61、p=0.001])6)。特に、BRAF遺伝子変異があると予後不良である。

 固形腫瘍の患者を対象とした第I相試験において、dMMRの腫瘍に対するPD-1阻害剤の効果が確認された7)。39人の固形腫瘍患者のうち、14人が転移性結腸癌であった。また、Pembrolizumabの第II相試験においても遠隔転移を有する結腸癌に対するPD-1阻害剤の有効性が確認されている8)

 これらのdMMR/MSI-H転移性大腸癌に対するPD-1阻害剤の有効性を示唆する知見に基づきNivolumab療法による有効性と安全性を評価するマルチコホートの第II相試験(CheckMate 142)が行われ、本論文ではNivolumab単剤療法の結果を報告する。

 対象患者は転移もしくは再発性結腸癌があり、dMMRやMSI-Hが施設判定で確認された患者である。18歳以上でECOG PS 0か1、RECISTで測定病変があるもの、少なくとも1ライン以上のフッ化ピリミジン系、OxaliplatinもしくはIrinotecanを含む化学療法に不応もしくは不耐だった患者が組み入れられた。活動性の脳・髄膜転移がある患者、3年以内に他の癌の既往がある患者、自己免疫疾患(1型糖尿病、甲状腺機能低下症、乾癬など)を有する患者、投与2週間前に免疫抑制薬や全身性ステロイド投与が必要な状態にあった患者、他の免疫チェックポイント阻害薬の投与された患者、HBV、HCV感染、HIV感染のある患者は除外された。

 Nivolumabは増悪、有害事象で継続困難になるまで3 mg/kgを2週間ごとに経静脈的に投与された。治療後の最初の増悪時点で担当医が投与継続に忍容性および有効性が期待できると判断した場合は投与継続を許容したが最初の増悪から腫瘍量が10%以上増加すれば中止とした。効果判定はRECIST version 1.1を使用し6週ごとに24週間行い、その後は12週ごとに増悪まで継続した。また患者報告アウトカムもEORTC-QLQ-C30とEQ-5Dを測定し、EORTC-QLQ-C30は10ポイントの差をもって有効と評価した。安全性はCTCAE version 4.0に則って評価された。

 dMMR/MSI-Hはスクリーニング前に生検検体もしくはアーカイブ検体を用いて各施設で免疫染色、PCRのいずれかを行い評価された。さらに登録に際し採取された新しい生検検体を用い、中央施設でMSIを評価した。PD-L1の発現、BRAFKRAS変異の有無も確認し、Lynch症候群の確認と血中のCEA濃度の測定も行われた。

 主要評価項目は担当医評価による奏効割合(ORR)、副次評価項目は中央判定のORR、探索的アウトカムは安全性、無増悪生存期間(PFS)、OS、QOL、およびPD-L1などのバイオマーカーとの関連とした。

 Simon two-stage designを使用し、19人を組み入れた時点で7人以下のPR、CRが確認できなければ組み入れを終了する予定とした。7人以上のPR、CRが確定できた場合には29人をさらに追加するstage 2に進む予定とした。結果として十分な数のPR、CRが確認できたため、試験はstage 2へと移行した。施設判定でMSI-Hが確認できた患者の中で、中央判定でMSI-Hが確認できない症例があったため、中央判定で48例のMSI-H患者が確認できるまで組み入れを継続した。

 2014年5月12日から2016年5月16日までに74人の患者が組み入れられた。フォローアップ期間の中央値は12ヵ月で、半数の患者が3ライン以上の治療を受けていた。29人(39%)の患者がBRAF/KRASが野生型であり、BRAF遺伝子変異の割合は12人(16%)、KRAS遺伝子変異の割合は26人(35%)であった。1%以上のPD-L1発現は21人(28%)に認められた。

 施設判定でdMMR/MSI-Hと判定された74人の患者のうち、中央判定でMSI-Hと判定されたのは53人(72%)であった。データ収集終了時点で、36人(49%)で治療が継続されていた。治療中断は38人(51%)で、内訳としては病勢増悪が27人(36%)、治療による有害事象が6人(8%)、治療薬と関係のない有害事象、最大限の治療効果を得た、患者の判断、同意の撤回、その他の理由がそれぞれ1人であった。Nivolumabの投与回数の中央値は22回(IQR 6-29)であった。

 主要評価項目である、担当医評価によるORRは31.1%(95% CI: 20.8-42.9%)(PR 31%)であり、SD 38%であった。副次評価項目の中央判定によるORRは32%(95% CI: 22-44%)(そのうちCR 3%、PR 30%)であり、SD 34%であった。12週病勢制御割合は担当医評価で69%(95% CI: 57-79%)であった。中央判定でMSI-Hと判定された53例については担当医評価、中央判定ともにORRは36%(95% CI: 23-50%)であった。奏効するまでの期間の中央値は2.8ヵ月であった。PFS中央値は14.3ヵ月、12ヵ月PFS割合は50%(95% CI: 38-61%)、12ヵ月OS割合は73%(95% CI: 62-82%)であった。

 PD-L1の発現率別のORRは≧1%で29%、<1%では13%と変わらなかった。また、BRAF変異陽性、KRAS変異陽性、BRAF/KRASともに野生型での奏効率はそれぞれ25%、27%、41%であった。12週時点で病状がコントロールできていた患者ではCEA濃度が低下していた。

 患者報告アウトカムでは半数以上の患者で10%以上の減少は認めなかった。精神的活動性、役割活動性、社会的活動性、身体症状で臨床的に有意な改善を認めた。

 有害事象は74例のほぼ全ての患者で認められ、30例(39%)はgrade 3、10例(14%)がgrade 4の有害事象を生じていた。Grade 3以上の有害事象はリパーゼ上昇(8%)、アミラーゼ上昇(3%)であった。5人(7%)が治療関連の有害事象によって投薬を中断した(内訳はALT上昇、腸炎、十二指腸潰瘍、急性腎障害、粘膜炎)。重篤な治療関連有害事象は9人(12%)に生じた。副腎不全、ALT上昇、腸炎、下痢、胃炎、粘膜炎、急性腎障害、疼痛、関節炎がそれぞれ1例に認められた。突然死が1例に認められたが、治療薬との関係は認められなかった。

 以上の結果から、dMMR/MSI-Hを有する切除不能転移性大腸癌患者に対するNivolumab単剤療法は安全かつ有効であることが示された。これらの知見に基づき、Ipilimumabなどの新たな薬剤との併用によるNivolumabの治療効果を高めるためのさらなる検討が必要である。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 喜多 昭介



監訳者コメント:
dMMR/MSI-H大腸癌に対するNivolumabの安全性と有効性を検証した第II相試験

 さまざまな癌種で治療開発が進んでいる免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)の一つ、抗PD-1抗体薬であるが、大腸癌に関しては世界的にも死亡数の多い癌であるにも関わらず、初期の研究で有効性を示すことができなかった。しかしdMMR/MSI-Hを有する腫瘍に関しては変異負荷が多く、抗原性を有するneo-epitopeが強く出現し、CD8+リンパ球が腫瘍に多く浸潤しており、ICIsの効果が増強する可能性が示唆されている9)。抗PD-1抗体薬であるPembrolizumabは大腸癌を含むdMMR/MSI-Hを有する固形癌に対して5つの臨床試験で有効性を示しFDAにより先んじて承認を得ている。

 本研究はdMMR/MSI-Hを有する切除不能大腸癌患者に対する抗PD-1抗体薬であるNivolumabの第II相試験である。奏効率については31%であり、Pembrolizumabの36%とほぼ同等の結果であった。加えてCheckMate 142試験の別コホートでNivolumab+Ipilimumabの併用療法についてもdMMR/MSI-H大腸癌に有効であることが報告され、dMMR/MSI-Hを有する切除不能大腸癌患者に対するICIsの有効性が再現性をもって示され新たな治療戦略を示唆する結果となっている10)

 また本研究ではdMMR/MSI-H以外のバイオマーカーとして他のICIsの臨床試験と同じくPD-1のリガンドであるPD-L1発現を免疫染色で調べているが、PD-L1発現の有無が治療効果に影響を与えなかった。dMMR/MSI-HやPD-L1は腫瘍そのもののバイオマーカーであり、患者側の免疫状態を示すマーカーではない。患者のT細胞そのものが疲弊し機能低下している場合は、腫瘍へ多くのT細胞が浸潤していてもICIsによる治療効果は望めない。腫瘍細胞のバイオマーカーのみならず、宿主側の免疫状態、特にT細胞の疲弊を示すバイオマーカーとの関わりを複合的に検索し、その知見を基に免疫疲弊を超克する併用療法などの新しい治療戦力の開発が待たれる。

 一方でマイクロサテライト不安定性のない(MSS)大腸癌に関しては、抗原性が低いためにICIsが効果を示さないと考えられており、抗原性を高めることでICIsによる治療効果を発揮させる試みが進められている。大腸癌に高発現しているがんマーカーであるCEAを標的とし、T細胞が認識するCD3を組み合わせたCEA/CD3 T-cell bispecific(CEA-TCB)抗体と抗PD-L1抗体薬であるAtezolizumabとの併用療法や、MEK阻害剤によりMHC-class Iの発現の増加、腫瘍内T細胞浸潤の促進、抗PD-L1の活性化が基礎研究で示されたことから、MEK阻害剤であるCobimetinibとAtezolizumab併用療法などが臨床試験として行われ、有望な結果を示している11,12)

 今まで大腸癌に関して治療効果が期待出来なかったICIsであるが、今後さらなる治療開発が進んでいき、大腸癌に対してICIsが有効な治療法の一つとして示される日は遠くないと考える。FDAが速やかな承認を行ったように本邦においても迅速に承認され大腸癌に苦しむ多くの患者の元にこれらの治療が少しでも早く届くことを切に願う。

  •  1) National Clinical Practice Guidelines in Oncology. Colon Cancer Version 2.2017
  •  2) Goldstein J, et al.: Ann Oncol. 25(5): 1032-1038, 2014 [PubMed]
  •  3) Koopman M, et al.: Br J Cancer. 100(2): 266-273, 2009 [PubMed]
  •  4) Giannakis M, et al.: Cell Rep. 15(4): 857-865, 2016 [PubMed]
  •  5) Llosa NJ, et al.: Cancer Discov. 5(1): 43-51, 2015 [PubMed]
  •  6) Venderbosch S, et al.: Clin Cancer Res. 20(20): 5322-5330, 2014 [PubMed]
  •  7) Brahmer JR, et al.: J Clin Oncol. 28(19): 3167-3175, 2010 [PubMed]
  •  8) Le DT, et al.: J Clin Oncol. 34(15)_suppl: 103-103, 2016
  •  9) Le DT, et al.: N Engl J Med. 372(26): 2509-2520, 2015 [PubMed]
  • 10) Andre T, et al.: J Clin Oncol. 35(15)_suppl: 3531-3531, 2017
  • 11) Tabernero J, et al.: J Clin Oncol. 35(15)_suppl: 3002-3002, 2017
  • 12) Bendell JC, et al.: J Clin Oncol. 34(15)_suppl: 3502-3502, 2016

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 宮本 敬大

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