論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

食道癌

食道癌治療におけるPaclitaxel、Cisplatin併用化学放射線療法へのCetuximabの上乗せ効果


Suntharalingam M, et al.: JAMA Oncol. 2017 Jul 6 [Epub ahead of print]

 RTOG 8501の結果、Cisplatin+5-FU併用化学放射線療法が放射線治療単独よりも生存率が上回り、非手術時の食道癌に対する標準治療が確立した1,2)。その後25年以上かけて、Cisplatin+5-FU併用の化学放射線療法に対してアウトカム改善を目標に、照射線量増加や導入化学療法、新規全身療法の開発などを含めたさまざまな新しい治療法の検証が行われてきた。

 上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的としたEGFR阻害薬は大腸癌や頭頸部扁平上皮癌において既に有用性が報告されている3)。食道癌治療において、50%以上にEGFR過剰発現を示す局所進行食道癌を対象に、化学放射線療法にCetuximabを上乗せすることの実行可能性がまず検証され、完全奏効割合が76%、1年生存率は70%で、毒性は従来治療と比較して許容できるものであったと報告された4)

 第II相試験では、局所進行食道癌に対してプラチナ製剤にPaclitaxel毎週投与を組み合わせた治療の有効性が示された5)。5-FU持続投与を含むレジメンと比較して、投与法が簡便であることや消化器毒性が軽減するという利点がある。

 このような背景から、RTOG(現在のNRG Oncology)は手術治療を施行しない食道癌患者の治療に、Paclitaxel、Cisplatin併用化学放射線療法にCetuximabを追加することの有用性を検証するために第III相試験(RTOG 0436試験)を実施した。

 対象は、組織型が扁平上皮癌もしくは腺癌と診断されている食道癌もしくは食道胃接合部癌で、AJCC 2002病期分類での、T1N1M0、T2-T4/any N/M0、any T/any N/M1aの症例が適格とされた。週1回のCisplatin(50 mg/m2)およびPaclitaxel(25 mg/m2)の同時投与および1回線量1.8 Gyの放射線照射を1日1回総線量50.4 Gyを受ける治療と、これに加えて、週1回のCetuximab投与(1日目に400 mg/m2、その後は週1回250 mg/m2)を受ける試験群と、受けない対照群に無作為に割り付けられた。対象は、組織型(腺癌 vs. 扁平上皮癌)、腫瘍径(5 cm未満 vs. 5 cm以上)、腹腔リンパ節転移(あり vs. なし)によって層別化された。

 主要評価項目は全生存(OS)とした。副次的評価項目は、毒性、臨床的完全奏効(cCR)、局所再発率などであった。

 目標症例数は、2年OS率の41%から53%への増加を仮定し、80%の検定力および片側検定α=0.025で検出として、400症例(281イベント)となったが、除外などによる検出力の低下も考慮し420症例と定められた。またCetuximabに対する反応性の組織学的な差異が予想されたため、組織型毎のcCRを中間解析に用いた。対照群でcCRを40%と想定し試験群に12%の増加を見込み、84%の検出力および片側α=0.10で、組織型別に150症例の時点で中間解析を行うことにした。

 2008年6月30日から2013年2月8日までの間に、344名の患者が登録された。16名の患者が不適格であったため評価可能な患者は328名となり、試験群が159名、対照群が169名であった。患者背景は試験治療群、対照群両群で偏りがなかった。腺癌患者150例集積時点の中間解析でcCRに有意差を認めなかったため、2012年5月以降は腺癌患者の登録は中止となった。また同時期に英国で行われたSCOPE 1試験で、化学放射線療法にCetuximabを上乗せする利益が証明されなかったため、2013年1月時点で扁平上皮癌患者の症例登録も一時中止となった。利用可能なデータから解析を行った結果、データモニタリング委員会がこれ以上の症例集積を中止することを推奨したため、2013年2月8日で被験者の本試験への登録は終了となっている。

 全患者の追跡期間中央値は18.6ヵ月で、24ヵ月後および36ヵ月後のOS率は、試験群では45%(95% CI: 37-53%)および34%(95% CI: 26-41%)であったのに対し、対照群では44%(95% CI: 36-51%)および28%(95% CI: 21-35%)で、両群のOS率に有意差を認めなかった(HR: 0.90、95% CI: 0.70-1.16、p=0.47)。多変量解析では、PS 0および深達度T1 or T2、腫瘍径5 cm未満が予後良好因子であったが、腺癌 vs. 扁平上皮癌の組織型別の解析はそれぞれ腺癌の中央値19.7ヵ月(2年OS率44%、95% CI: 36-50%)、扁平上皮癌の中央値19.0ヵ月(2年OS率46%、95% CI: 37-55%)で組織型について有意差を認めなかった(p=0.23)。

 治療関連の非血液毒性のうち、grade 4以上の有害事象は15.7%(95% CI: 10.8-22.3%)、治療関連のgrade 3以上の血液毒性は45%と44%であった。痤瘡様皮疹が試験治療群でgrade 1、2、3でそれぞれ26%、29%、6%であったのに対して、対照群ではgrade 1が1%のみであった。grade 5の有害事象が試験治療群6例、対照群で2例認められたが、Cetuximab追加群の6例のうち3例のgrade 5の有害事象は登録早期に確認され、いずれも75歳以上の症例であった。これを受けて適格基準を75歳未満に改訂した2011年7月以降は両群間でgrade 5の治療関連毒性に差は認めなかった。

 cCRは、試験群では81名(56.3%)、対照群では92名(57.9%)で得られたが有意差を認めなかった(p=0.66)。プロトコールにあらかじめ規定していたように最初の150例で腺癌あるいは扁平上皮癌のどちらの組織型においてもcCRの中間解析を施行したが、腺癌例で試験群52.7% vs. 対照群53.9%(p=0.62)、扁平上皮癌例で試験群59.3% vs. 64.4%(p=0.78)というcCR率で、Cetuximabの追加によってcCRの上昇は示されなかった。cCR達成例は病変残存症例に比べてOSが有意に良好であった(HR=0.46、95% CI: 0.35-0.60、p<0.01)。

 局所再発率は、24ヵ月後および36ヵ月後について、試験群では47%(95% CI: 38-57%)および49%(95% CI: 40-59%)であったのに対し、対照群では49%(95% CI: 41-58%)および49%(95% CI: 41-58%)であり両群に差を認めなかった(HR: 0.92、95% CI: 0.66-1.28、p=0.65)。

 以上のように、食道癌治療において、化学放射線療法にCetuximabを上乗せすることで生存期間の延長を示すことができなかった。


日本語要約原稿作成:京都大学がん薬物治療科 片岡滋貴



監訳者コメント:
食道癌に対する化学放射線療法にEGFR阻害剤の上乗せ効果はないことが証明された

 本邦における食道癌は9割以上が扁平上皮癌であり、同じく扁平上皮癌を対象にした頭頸部癌で放射線治療に対しCetuximabの上乗せ効果が示されたことから、Cetuximabは食道癌に対しても期待される薬剤であった。

 本試験と同じ戦略で実施されたSCOPE 1試験では、化学放射線療法に対しCetuximabの上乗せ効果は示せないばかりか、生存期間を短縮する結果が示された。また、SCOPE 1試験では、化学放射線療法前に導入化学療法が採用されていたため、現在の標準治療である同時併用化学放射線療法での本試験の報告が注目されていた。

 本臨床試験は、Paclitaxel+Cisplatin+放射線療法(50.4 Gy/28 fr)にCetuximabの上乗せ効果を検証した第III相臨床試験である。SCOPE 1試験の結果にも影響され、扁平上皮癌では予定症例数を満たすことなく中間解析が実施され結果が報告された。Cetuximab追加による生存期間、局所制御期間、臨床的完全奏効割合と有効性を評価するエンドポイントのすべてで有意差を認めず、優越性を示すことが出来なかった。これら2試験の結果から、食道癌の化学放射線療法におけるCetuximabの上乗せ効果はないと結論付けられる。

 本試験では85%の組織検体が回収されている。食道癌に対する2nd-line化学療法としてのGefitinib vs. placeboを比較した第III相試験(COG試験)のように、all comerでは生存期間の延長を示せなかったが、EGFR FISH陽性またはEGFR増幅のサブグループでGefitinibによる生存期間延長が示されており、本試験のバイオマーカー解析による有効例の検出に期待したい。

  •  1) Cooper JS, et al.: JAMA. 281(17): 1623-1627, 1999 [PubMed]
  •  2) Herskovic A, et al.: N Engl J Med. 326(24): 1593-1598, 1992 [PubMed]
  •  3) Bonner JA, et al.: Lancet Oncol. 11(1): 21-28, 2010 [PubMed]
  •  4) Safran H, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys. 70(2): 391-395, 2008 [PubMed]
  •  5) van Hagen P, et al.: N Engl J Med. 366(22): 2074-2084, 2012 [PubMed]

監訳・コメント:京都大学がん薬物治療科 野村基雄

論文紹介 2017年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場