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4月
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次

大腸癌

結腸癌の左側/右側と予後との関連性


Petreli F, et al.: JAMA Oncol. 3(2): 211-219, 2017

 結腸癌の局在性(右側: 脾彎曲まで、左側: 下行結腸、S状結腸、直腸S状部含む)は、生物学的特徴の違いにより予後に影響を及ぼす可能性が示唆されているほか、臨床症状も異なり、右側では不顕性の出血による鉄欠乏性貧血が多く、左側では血便や排便困難が多くみられる1)。また、分子生物学的には右側はミスマッチ修復遺伝子欠損、KRAS/BRAF変異、microRNA-31、左側はCIN、p53、NRAS、microRNA-146a、microRNA-147b、microRNA-1288と関連している2)

 原発巣の局在性は、術後補助化学療法のアウトカム、およびstage IV患者に対する緩和的化学療法による生存期間に影響を及ぼすと考えられる。Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてFOLFOXへのCetuximabの上乗せ効果を検討したN0147試験では、左側は右側と比べて良好なDFS(disease-free survival)を示した3)。同様に、Weissらの報告ではstage III結腸癌において左側で良好な転帰を認めたがstage IIにおいては認められなかった4)。またLoupakisらの報告では切除不能大腸癌の初回化学療法において左側で良好な転帰を認めた5)。そこで、本システマティックレビューおよびメタアナリシスでは、結腸癌原発部位の予後予測能について評価された。

 本研究はPRISMAガイドラインと「Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions」に従って行われ、引用文献は2016年2月までのPubMed、Cochrane Library、SCOPUS、Web of Science、EMBASE、LILACS、CINAHL、2016年米国臨床腫瘍学会年次集会のabstractより選定された。

 感度分析は、人種(アジア人 vs. 非アジア人)、stage(I-III vs. IV)、出版年(2006年以前 vs. 2006〜2016年)、質(高 vs. 低)、試験のタイプ(後ろ向き vs. 前向き)により行われ、stage間の試験間変動の影響を調べるために、stage I, II, III, IV患者集団、stage IIで化学療法を受けた患者の割合、NOS(Newcastle-Ottawa Scale)で調整されたOSの多変量ランダム効果モデルのメタ回帰分析が行われた。なお、観察されたハザード比1未満は、左側の生存が良好であることを意味する。

 最終的に1995〜2016年に出版された66研究が同定され、59研究は後ろ向きで7研究は前向き、56研究は白人で10研究はアジア人が含まれていた。また、20研究はstage IV、25研究はstage I-III、20研究は全stageについて報告され、1研究はstageデータがなかった。NOS評価6)における質は5〜9で、75%は高品質(7〜9)であった。症例数は1,437,846例(範囲: 87〜279,623例、中央値880例)であり、右側の割合は17.6〜67%、左側は10〜71%であった。

 異質性検定において研究間に高レベルの異質性が認められたため(I2=93%, p<0.001)、解析にはランダム効果モデルが用いられた。多変量解析からプールされたハザード比は0.82(95% CI: 0.79-0.84, p<0.001)であり、左側の患者において良好な生存が認められた。

 症例数(中央値未満、超)により行われたサブグループ解析では、大規模研究(880例超)のハザード比は0.84(95% CI: 0.81-0.87)、小規模研究(880例未満)は0.7(95% CI: 0.65-0.76)と、大規模研究で劣っていた(サブグループの差におけるp<0.001)。人種による解析では、ハザード比はアジア人0.8(95% CI: 0.71-0.89)、非アジア人0.82(95% CI: 0.79-0.85, p<0.001)と同程度であり、前向き(HR=0.82, 95% CI: 0.73-0.91)と後ろ向き(HR=0.82, 95% CI: 0.78-0.84)、研究の質の高(HR=0.81, 95% CI: 0.78-0.84, p<0.001)と低(HR=0.82, 95% CI: 0.75-0.88, p<0.001)も同程度で、出版年(1995〜2005年と2006〜2016年)における変化も認められなかった。一方、stage I-IIIの25研究(HR=0.84, 95% CI: 0.79-0.89)と比べてstage IVの20研究(HR=0.73, 95% CI: 0.69-0.78)では左側の生存が有意に良好であった(サブグループの差におけるp<0.001)。

 メタ回帰分析では、効果の違いがstageによらないことが示された(stage I,II,III,IVで調整されたP値はそれぞれ0.35, 0.48, 0.41, 0.41)。Stage IIで術後補助化学療法を受けた患者の割合に従って(stage III/IVは全症例で受け、stage Iは受けなかった)メタ回帰分析を行った場合においても有意差は維持された(係数−0.36, p=0.11)。

 ランダム効果モデルでは、多変量および単変量解析からプールされたハザード比は0.85(95% CI: 0.82-0.88, p<0.001)と有意であり、これは質が高い研究でも確認された(HR=0.81, 95% CI: 0.77-0.84, p<0.001)。なお、funnnel plotおよびEgger検定(p=0.079)において明確な出版バイアスは認められず、メタアナリシスにてプールされたハザード比はTrim and fill法においても変化しなかった。

 以上のように、結腸癌の予後において原発巣の部位は重要な役割を果たしており、左側結腸は右側と比べて予後良好であった。これは人種、stage(stage II, III, IV)、出版年、研究の種類とは無関係であった。結腸癌の原発部位は予後決定の基準として認識されるべきであり、今後の術後補助化学療法に関する研究において重要な層別因子になると考えられる。



監訳者コメント:
結腸癌における原発部位の左右差と予後との関連性

 近年、結腸癌の原発部位の左右差(左側結腸/右側結腸)と予後および治療効果との関連性が注目されるようになり、学会発表を含めて既にいくつかの報告がなされている5,7-9)。これらの報告は、一貫して右側結腸癌の予後が左側結腸癌と比較して有意に不良である(左側結腸癌が右側結腸癌と比較して有意に良好である)というものであり、さらに薬剤の治療効果として、抗EGFR抗体薬であるCetuximabの治療効果は有意に左側結腸癌で良好である8-10)、というのもであった。本論文は、これらの報告を含めた66研究より140万人を超える症例の大規模なシステマティックレビューとそのメタ解析である。

 結果として、原発部位が人種やstageにかかわらず、重要な予後因子になること(左側結腸は右側結腸と比べて予後良好であること)が確認されたことには、大きな意義があると言えるだろう。しかしながら、原発部位と薬剤の治療効果との関連性には否定的な報告もあり11)、本論文の結論で述べられている通り、結腸癌における術後補助化学療法を含めた臨床試験においては、原発部位を前向きに層別化して検討していく必要があると考えられる。今後は、そのような前向き試験において、原発部位の左右差が薬剤の効果予測因子となり得るかどうかに注目していきたい。また、その本質と考えられる左側結腸と右側結腸の背景にある生物学的因子との関連性が明らかになることを期待したい。

  •  1) Saidi HS, et al.: East Afr Med J. 85(6): 259-262, 2008[PubMed
  •  2) Shen H, et al.: World J Gastroenterol. 21(21): 6470-6478, 2015[PubMed
  •  3) Sinicrope FA, et al.: J Clin Oncol. 31(29): 3664-3672, 2013[PubMed
  •  4) Weiss JM, et al.: J Clin Oncol. 29(33): 4401-4409, 2011[PubMed
  •  5) Loupakis F, et al.: J Natl Cancer Inst. 107(3): dju427, 2015[PubMed
  •  6) Deeks JJ, et al.: Health Technol Assess. 7(27): iii-x, 1-173, 2003[PubMed
  •  7) Schrag D, et al.: 2016 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3505
  •  8) Heinemann V, et al.: 2014 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3600[学会レポート
  •  9) Venook AP, et al.: 2016 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3504[学会レポート
  • 10) Brule SY, et al.: Eur J Cancer. 51(11): 1405-1414, 2015[PubMed
  • 11) Lee MS, et al.: 2016 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3506

監訳・コメント:久留米大学病院 がん集学治療センター 講師 三輪 啓介

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