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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

3月
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次

胃癌 食道癌

進行食道/胃食道接合部/胃癌に対するFOLFOX+Ramucirumab


Yoon HH, et al.: Ann Oncol. 27(12): 2196-2203, 2016

 プラチナ製剤とフッ化ピリミジン系製剤ベースの併用療法は進行食道癌、食道胃接合部(GEJ)癌、胃癌治療における1st-lineとして忍容可能である。しかし、そのPFS、OSは短く1,2)、近年はEGFR3)やMET経路4)を標的とする薬剤の臨床試験が失敗に終わっており、さらなる治療法の開発が重要である。

 Ramucirumabは抗VEGFR-2抗体薬であり、既治療の進行胃癌およびGEJ癌患者に対してOS改善を認めたが5,6)、1st-lineにおける臨床試験はまだ行われていない。そこで、未治療の進行食道/GEJ/胃腺癌に対してFOLFOXへのRamucirumab上乗せ効果を検討するプラセボ対照二重盲検無作為化第II相試験が行われた。

 対象はECOG PS0/1、転移を有するまたは切除不能な局所進行の食道/GEJ/胃腺癌患者であり、無作為化前6ヵ月以内の動脈血栓塞栓症、無作為化前14日以内の活動性出血、無作為化前3ヵ月以内のgrade 3/4の胃出血、コントロール不良な高血圧例は除外された。

 対象患者は、mFOLFOX6+Ramucirumab群(mFOLFOX6: Oxaliplatin 85mg/m2+l-LV 200mg/ m2+5-FU bolus 400mg/ m2+5-FU ci 2,400mg/ m2、Ramucirumab 8mg/kg、2週毎)とmFOLFOX6+プラセボ群に1:1で無作為化された。なお、治療は許容できない毒性、増悪、同意撤回、他の治療中止基準を認めるまで継続され、毒性のためレジメン中の1つの薬剤が中止された場合は残りの薬剤を用いて治療は継続された。

 主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率、OSであった。PFSのイベント数125、ハザード比0.71(中央値でmFOLFOX6+プラセボ群5.8ヵ月、mFOLFOX6+Ramucirumab群8.1ヵ月)と仮定し、片側α=0.15、検出力80%で、必要症例数は166例であった。

 2011年4月〜2012年8月の間に米国で168例が登録され、各群84例に無作為化された。患者背景は両群でバランスが取れており、約半数が食道癌であった。

 主要評価項目のPFSの中央値はmFOLFOX6+プラセボ群6.7ヵ月、mFOLFOX6+Ramucirumab群6.4ヵ月であり、両群に有意差を認めなかった(HR=0.98, 95% CI: 0.69-1.37, p=0.886)。また、OSの中央値はそれぞれ11.5ヵ月、11.7ヵ月であり、両群に有意差を認めなかった(HR=1.08, 95% CI: 0.73-1.58, p=0.712)。奏効率はそれぞれ46.4%、45.2%と同程度だったが、SD率はそれぞれ20.2%、39.3%とmFOLFOX6+Ramucirumab群で良好であった。

 大部分のgrade 3以上の治療関連有害事象は両群で有意差は認められなかった。最も多くみられたgrade 3以上の治療関連有害事象は(mFOLFOX6+プラセボ群 vs. mFOLFOX6+Ramucirumab群)、好中球減少(36.3% vs. 26.8%)、疲労(15.0% vs. 18.3%)、高血圧(3.8% vs. 15.9%)であり、Ramucirumab関連の高血圧と同様に、一部のFOLFOX関連の有害事象もわずかにmFOLFOX6+Ramucirumab群で多くみられた。なお、mFOLFOX6+Ramucirumab群でgrade 1/2の出血(特に鼻出血)が比較的多くみられたが、grade 3の出血は両群で同程度であり、grade 4/5の出血イベントは認めなかった。

 増悪以外の理由による治療中止はmFOLFOX6+Ramucirumab群で多く(16% vs. 48%)、治療中止理由はPD(69% vs. 43%)、患者または治療医の決定(10% vs. 27%)、有害事象(6% vs. 21%)、死亡(4% vs. 1%)であった。各薬剤の投与数中央値は、mFOLFOX6+プラセボ群ではプラセボが11、5-FUが11、Oxaliplatinが10、leucovorinが11であったが、mFOLFOX6+Ramucirumab群ではいずれも9であった。

 mFOLFOX6+Ramucirumab群で早期治療中止率が高かったため、以前使用した方法7)と同様に、増悪以外の理由による治療中止例を打ち切りとするpost-hoc探索的解析を行ったところ、ITT集団のPFSのハザード比はmFOLFOX6+Ramucirumab群で良好であった(HR=0.76, 95% CI: 0.50-1.15, p=0.194)。また、事前に規定されていたサブグループである胃/GEJ癌におけるPFSはmFOLFOX6+Ramucirumab群で良好であったが(中央値7.6ヵ月 vs. 9.3ヵ月, HR=0.53, 95% CI: 0.29-0.97, p=0.036)、食道癌では両群に差を認めなかった(中央値5.8ヵ月 vs. 5.8ヵ月, HR=1.10, 95% CI: 0.61-1.97, p=0.746)。

 以上のように、未治療の進行食道、GEJ、胃腺癌患者に対して、mFOLFOX6へのRamucirumabの上乗せ効果は認められなかった。Ramucirumabの有用性を認めたRAINBOW試験5)REGARD試験6)と異なる結果となった理由として、1st-lineと2nd-lineにおける疾患の生物学的な違い、増悪以外の理由による治療中止がmFOLFOX6+Ramucirumab群で多かったこと、本試験における食道癌の割合が多かったこと、併用化学療法がFOLFOXであることが挙げられる。そのため、現在、胃/GEJ癌の1st-lineを対象にCisplatin+フッ化ピリミジン系製剤併用療法に対するRamucirumabの上乗せ効果を検討する第III相試験、RAINFALL試験8)が進行中である。



監訳者コメント:
胃癌に対する初回化学療法としてのmFOLFOX6+Ramucirumabの成績

 血管新生阻害効果を持つヒト型抗VEGFR-2モノクローナル抗体薬Ramucirumabは、RAINBOW試験5)REGARD試験6)の結果をもとに、治癒切除不能な進行・再発胃癌に対して、2015年に本邦において承認された。ただし、両試験とも2nd-lineにおけるエビデンスであるため、Ramucirumabの初回治療における役割はいまだ不明である。

 分子標的薬治療のなかで、これまで胃癌に対する初回治療で有用性を示したのは抗HER2抗体Trastuzumabのみである9)。一方、Ramucirumabと同じ血管新生阻害薬である抗VEGF抗体薬Bevacizumab併用の初回治療は,AVAGAST試験にてその上乗せ効果が否定されている10)。本論文では、食道腺癌・胃腺癌に対する初回化学療法としてのFOLFOX療法へのRamucirumabの上乗せ効果を検討した無作為化第II相試験の結果が報告された。

 主要評価項目である食道腺癌・胃腺癌全体に対するPFSの延長効果は示されず、試験としてはnegative studyであったが、サブセット解析では胃腺癌および食道胃接合部癌では食道腺癌に比べ、Ramucirumab併用群のOS、PFSが良好な傾向にあった。また、PD以外の理由による治療中止を打ち切りとした胃腺癌(接合部癌を含む)症例のPFS解析では、Ramucirumabの上乗せ効果が有意に示された。しかし、このサブ解析はあくまでもpost hocなものであるため、結果の解釈は慎重に行うべきである。

 進行・再発胃癌に対するRamucirumabの初回化学療法への上乗せ効果に関しては、現在第III相試験8)が進行中であるため、それらの結果が待たれる。

  •  1) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 24(31): 4991-4997, 2006[PubMed][論文紹介
  •  2) Al-Batran SE, et al.: J Clin Oncol. 26(9): 1435-1442, 2008[PubMed
  •  3) Lordick F, et al.: Lancet Oncol. 14(6): 490-499, 2013[PubMed
  •  4) Cunningham D, et al.: 2015 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4000[学会レポート
  •  5) Wilke H, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1224-1235, 2014[PubMed][論文紹介
  •  6) Fuchs CS, et al.: Lancet. 383(9911): 31-39, 2014[PubMed][論文紹介
  •  7) Saltz LB, et al.: J Clin Oncol. 26(12): 2013-2019, 2008[PubMed
  •  8) A Study of Ramucirumab (LY3009806) in Combination With Capecitabine and Cisplatin in Participants With Stomach Cancer (RAINFALL)[CT.gov
  •  9) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010[PubMed][論文紹介
  • 10) Ohtsu A, et al.: J Clin Oncol. 29(30): 3968-3976, 2011[PubMed][論文紹介

監訳・コメント:九州大学大学院 消化器・総合外科 外科分子治療学 准教授 佐伯 浩司

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