論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

7月

EPIC試験:転移性結腸・直腸癌に対するfluoropyrimidine+L-OHP無効後のcetuximab+irinotecanの第III相試験

Sobrero AF, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(14): 2311-2319

 EGFRに対する分子標的治療は、5-FU、CPT-11、およびL-OHP抵抗性の癌にも有効である。Cetuximab+CPT-11は、CPT-11抵抗性結腸・直腸癌患者の奏効率を大きく改善するが、その有効性のパターンからはcetuximabが化学療法感受性を回復させていることが示唆されている。本試験は、CPT-11の治療歴がない転移性結腸・直腸癌患者に対するcetuximab+CPT-11による2次治療により、生存期間が延長するかどうかを検討する多施設第III相オープンラベル無作為化試験である。
 Fluoropyrimidine+L-OHPによる1次治療が無効であったEGFR陽性患者1,298例をcetuximab+CPT-11群(648例)またはCPT-11単独群(650例)に無作為に割り付けた。単独群はCPT-11を3週ごとに350mg/m2静注し、併用群にはこれに加えてcetuximabを初回用量400mg/m2、以後250mg/m2/週を静注した。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、RR、およびQOLとした。
 OS中央値は併用群10.7ヵ月、単独群10.0ヵ月であり、両群で同等であった(HR 0.975、p=0.71)。PFS中央値は併用群4.0ヵ月に対して単独群2.6ヵ月であり、併用群で有意に延長した(HR 0.692、p≦0.0001)。6ヵ月PFSはそれぞれ27.4%、16.3%、9ヵ月PFSは12.6%、6.5%であった。奏効率も16.4%、4.2%(CRは9例vs 1例)で併用群が優れていたが(p<0.0001)、奏効期間は5.7ヵ月 vs 5.5ヵ月で差がなかった。
 QOLは、15項目のうち疲労、悪心・嘔吐、睡眠障害、疼痛、下痢、全般的健康感、身体機能、役割機能、感情機能、認識機能の10項目で併用群が有意に優れていたが、社会機能に差は認められなかった。
 併用群の安全性プロファイルは過去の研究と同様であり、CPT-11単独群と比較して毒性が大きく増加することはなかったが、アクネ様発疹(76.3% vs 4.9%)、低マグネシウム血症(33.8% vs 8.4%)やその他の電解質異常は併用群に多くみられた。最も頻度が高いグレード3/4の毒性は、両群ともに好中球減少であった(31.8% vs 25.4%)。
 以上のように、転移性結腸・直腸癌に対する2次療法としてのcetuximab+CPT-11併用は、CPT-11単独と比較して奏効率、PFSが改善し、QOLも良好であった。OSに差がみられなかった理由として、CPT-11単独群の46.9%が試験後、最終的にcetuximab投与を受けたことがクロスオーバーとなった可能性が挙げられる。現在、転移性結腸・直腸癌に対するcetuximabの最適な投与法を検討する試験が進行中である。

考察

各種active drugを用いる大腸癌化学療法において、さらなる延命効果を得るには、cetuximabの最適な位置付けを見つけていく必要がある

 CPT-11の治療歴がない大腸癌患者においてもEGFR陽性であればcetuximabの併用でCPT-11単独よりもRRが高く、PFSも延長することを示した第III相無作為化試験である。
 本邦でも大腸癌に対する承認が近いとされるcetuximabであるが、そのエビデンスの中心は現在まで2次・3次治療が中心である。代表的なBOND1試験ではCPT-11抵抗性・EGFR陽性大腸癌患者におけるCPT-11とcetuximab併用の意義が証明され、BOND2試験ではCPT-11抵抗性患者においてcetuximabとbevacizumab併用の安全性が確認された。また2007 年New Engl J Med(2007 ; 357(20): 2040-2048)には5-FU、CPT-11、L-OHPに抵抗性を示したEGFR陽性患者においてBSC単独よりもcetuximab単剤でOSが有意に延長することも報告された。これらの結果はcytotoxic chemotehrapyに抵抗性であっても分子標的製剤の使用がなければ、分子標的製剤を併用する意義があることを示している。本試験はCPT-11の治療歴がない2次治療でもCPT-11に対するcetuximabの上乗せ効果を示した点でさらにこれを裏付けている。また本試験終了後、CPT-11単独群の46.9%がcetuximab投与を受け、最終的にOSに差がみられなかったように、各種active drugを用いて延命効果を出す大腸癌化学療法において、cetuximabもさらなる延命のためのkey drugとなりうるだろう。
 一方で最近、K-ras mutationを認める患者では強いcetuximab抵抗性を示すことが報告されており、今後患者選択が大きな課題と思われる。そのためには先行するbevacizumabとの関係を含め、効果、安全性、コスト面のすべてにおいてバランスのよい最適化を目指していく研究が重要であろう。

監訳・コメント:三重大学医学部 楠 正人(消化管・小児外科学教室・教授)
三重大学医学部 井上 靖浩(消化管・小児外科学教室・講師)

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