論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

2月

平均的リスク集団の結腸・直腸癌スクリーニング法としての
便DNA検査と便潜血検査の比較

Imperiale TF, et al., N Engl J Med. 2004; 351(26): 2704-2714

  便潜血検査は、結腸・直腸癌の死亡リスクを低下させる唯一の非侵襲的スクリーニング検査法であるが、感受性が低いという問題がある。そこで、便検体中の異常DNAを同定する方法(便DNA検査)とHemoccult II 法による便潜血検査の精度を、平均的な結腸・直腸癌リスクを有する50歳以上、無症候性の被験者を対象として比較した。
 被験者が提出した便検体について、DNA解析および標準的なHemoccult II 検査を行い、その後、大腸内視鏡検査を実施した。被験者5,486例中4,404例が全検査項目を終了し、そのうち浸潤性腺癌あるいは進行性腺腫と診断された対象者全例、およびポリープがないか小さなポリープのみの対象者から無作為に選択した例を合わせた2,507例のサブグループについて解析した。便DNA検査では21の遺伝子変異について検査を行った。
 浸潤性癌(TNMステージ I 〜 III)31例のうち16例が便DNA検査により検出されたが、便潜血検査で検出されたのは4例であった(51.6% vs 12.9%;p=0.003)。非浸潤性癌+高度異形成を伴う腺腫71例のうち、便DNA検査では29例、便潜血検査では10例が検出された(40.8% vs 14.1%;p<0.001)。進行性の腫瘍形成(直径1cm以上の管状腺腫、絨毛状の組織学的外観を有するポリープ、高度異形成を伴うポリープ、または癌と定義)を認めた418例のうち、便DNA検査では76例(18.2%)、便潜血検査では45例(10.8%)が陽性であった(p=0.001)。大腸内視鏡所見陰性例に対する特異性は、便DNA検査94.4%、便潜血検査95.2%であった。
 便DNA検査および便潜血検査はいずれも、大腸内視鏡検査で検出された腫瘍性病変の多くを検出することができなかったものの、便DNA検査は便潜血検査と比べて、特異性は低下することなく高率に結腸・直腸腫瘍を検出した。

考察

次世代の結腸・直腸癌検診

 便中のDNAを調べることにより結腸・直腸癌を検出する試みは、Dr. Vogelstein等の報告 (Science 1992) に始まる。私自身もDr. Vogelsteinの指導のもと、便よりDNAを抽出し、効率よく結腸・直腸癌を発見するための基礎的な実験を行っていた (JNCI 2001)。今回のDNA解析を担当したExact Sciencesはその頃共同研究しており、私も1週間Bostonに派遣され、彼らとともに便中のDNAの抽出と結腸・直腸癌特異的遺伝子異常の検出についての研究を行っていた。便から解析に耐えるpureなDNAを抽出することは容易ではなかったことをよく覚えている。今回の研究は初めてのprospectiveな大規模試験であり、要約にみられるように、便中のDNA解析が、特異性は同等に保ちながら、便潜血検査よりも結腸・直腸癌の検出力に優れることをものの見事に証明している。我々のように、遺伝子を用いた癌の早期発見を志しているものにとっては大変心強い結果であり、近い将来、こうした手法が結腸・直腸癌のスクリーニングに応用されるものと期待される。

監訳・コメント:名古屋大学大学院 医学系研究科 日比健志
(機能構築医学専攻・病態外科学講座・病態制御外科学分野 助手)

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