論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

7月

ヒトパピローマウイルス感染、喫煙および性習慣と肛門癌についての疫学調査

Janet R. Daling, Ph. D. et al., Cancer 101(2) 2004 : 270-280

 米国では1973年から2000年の約30年間に、肛門癌の罹患率は男性で160%、女性で78%増加している。肛門癌とヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連性については、これまで肛門癌の約85%を占める扁平上皮癌について、腫瘍組織あるいは血清を用いてHPV感染の検討がなされてきた。
 本論文は、過去20年間の疫学調査結果を基に、類基底細胞腫など他の組織型も含めた肛門癌全体についてのHPV感染や喫煙状況、性習慣などについて、危険因子解析を行った最終結果である。米国シアトル地区で1986年から1998年までの間に肛門癌と診断された男性119名、女性187名と対照1700名について、聞き取り調査と共に血清・腫瘍組織を用いてHPV感染の有無とそのウイルス型を解析した。その結果、肛門癌全体の88%がHPVが陽性で、ウイルス型は男女とも16型が最多(73%)で、18型は6.9%であった。一方、非異性愛(同性愛および両性愛)の男性の97.7%でHPVが陽性であった。現在までに性的対象者が15人以上いる場合は、肛門癌の危険率は男性でオッズ比5.3(95%CI:2.4〜12.0)、女性では11(95%CI:5.5〜22.1)に増加した。肛門性交歴がある場合は、非異性愛の男性でオッズ比6.8(95%CI:1.4〜33.8)、女性で2.2(95%CI:1.4〜3.3)に肛門癌の危険率が増加した。喫煙に関しては、男女とも年齢や他の危険因子と独立して、肛門癌の高危険因子であった。
 その検出率の高さから、子宮頸癌と同様に、肛門癌の発癌にHPVの感染が起因することが示唆される。肛門性交、HPV感染、性交対象の多人数化や喫煙の関与が示唆される。

考察

明らかにされたHPV感染、性習慣、喫煙の肛門癌への関与

 HPV感染が肛門癌全体の高危険因子であることが示された。扁平上皮癌を対象にした以前の調査結果と同様のHPV陽性率から、肛門癌の病因にHPV感染が関与するのは疑う余地がないと考えられる。また、肛門部へのHPV感染を招く性行動が危険因子であることも、これを裏付けるものである。一方で、免疫不全と肛門癌との関連性が言われているが、本研究は聞き取り調査のためにHIV感染の検討が不十分で、今後の検討が待たれる。国情の違いから、本調査結果が本邦の肛門部悪性疾患の現状にそのまま合致はしないが、近年本邦でも性行動の多様化によってHIV感染者や性行為感染症が増加し、HPV感染の機会は増えていると考えられる。また日本は喫煙率が依然高く、多重ハイリスクグループと肛門癌の今後の動向については注意を要すると考えられる。

(内科・帯刀誠)

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