GI cancer-net 消化器癌治療の広場

消化器癌治療の広場 2007年を振り返って

2007年を振り返って/坂本純一

  消化器癌治療において、2007年は大きな転換期として特記される年になるものと思われる。本稿ではEvidence Based Medicineの視点から、固形癌について最先端の研究成果を次々と発表している大腸癌の治療に焦点を当ててこの1年を振り返ってみたい。
  最も注目すべきは、分子標的治療がこれからの癌治療の主要な部分を担っていくであろうことが再確認された点である。Anti-VEGFであるbevacizumabについては、ASCO-GIでSaltzがFOLFOXまたはXELOXにbevacizumabをon-offするNO16966試験に登録された1,400例の進行大腸癌において、PFSが8.0ヵ月対9.4ヵ月と有意に延長することを発表している。これはHurwitzが2004年にN Eng J Medにおいて、IFL治療を行った進行大腸癌813例でbevacizumabの併用がPFSを6.2ヵ月から10.6ヵ月に延長した報告と合わせ、進行大腸癌に対するbevacizumabの有用性を確固たるものとした研究の再現性を証明したものとして注目されるべきものであろう。
  また、Anti-EGFRであるcetuximabに関しては、今年のASCOでvan Cutsemが進行大腸癌に対してFOLFIRIにcetuximabを併用するCRYSTAL研究の1198例で、PFSが8.0ヵ月から8.9ヵ月に延長することを明らかにするとともに、BokemeyerがFOLFOXにcetuximabを併用するOPUS試験の337例でも奏効率が33%から53%と大きく上昇することを証明している。これらの成果は、英国のBOND 1研究をうけて、昨年のASCOで発表されたCALGBの臨床試験でのFOLFOX、FOLFIRIに対するcetuximabの上乗せ効果、SANK試験におけるXELOXに対するcetuximabの上乗せ効果を再確認したものとして高く評価されるべき臨床研究であろう。
  Bevacizumab、 cetuximab両剤を併用する有用性については、すでに本年11月のJ Clin Oncolに発表されたBOND2研究によって明らかにされているが、現在EROTCがBOS研究でFOLFOX6に両剤を併用したレジメンとcetuximab単剤とを、術前術後の補助化学療法で比較する臨床試験を開始しており、今後明らかになるNASABP C-09やAVANT研究の成果とともに、結腸癌補助療法における2剤同時投与の有用性の評価がなされることを期待している。他の分子標的薬剤としては肝癌に対するSorafenibの効果も報告されており、今後の消化器癌や他の固形癌治療においても、これらの治療法が中心となっていく方向性があることを確信させられた。また、ASCOで腎癌に有効であると報告されたSunitinibが、大腸癌に対しても効果を示すことが10月のJ. Clin Oncolに発表され、癌腫の枠を越えた分子標的薬剤の有用性を検討する今後の臨床研究が期待される。

  標準治療として確立された観のあるフッ化ピリミジン、 CPt-11、 L-OHPの3剤についても、いくつかの興味深い事実が明らかになった。これらの薬剤をsequentialに用いる逐次療法とconcurrentに投与する併用療法を比較したCAIRO試験では、PFSで5.8ヵ月対7.8ヵ月とp=0.0002の有意差を持ってfirst lineで併用療法を試みることの効果が証明された。GrotheyがJ Clin Oncolに発表した、より多くのkey drugを使用することによってより高い治療効果がもたらされるというretrospectiveなデータが、randomized trialで証明されたことは極めて興味深い。
  また、FOLFOX療法の神経毒性を軽減するために発案されたstop and go治療でFOLFOXの休薬期間に5FU/LVを投与するOPTIMOX1と、無治療のOPTIMOX2レジメンの比較では、OSでOPTIMOX1のMST26ヵ月、OPTIMOX2のMST19ヵ月と有意ではないがかなり大きな差(p=0.054)が存在していることも判明し、5FU/LV治療を中断しないことが予後に良好な影響を与えるのではないかということが示唆されている。
  さらに、大腸癌肝転移切除対象例に対する術前、術後のFOLFOX補助療法の効果を手術のみ群と比較したNörtlingerの臨床試験では、 3年PFSにおいて、適格例でp=0.041、肝転移巣切除可能症例ではp=0.025と、明らかに有意にFOLFOXによる補助療法が有意の効果をもたらすことが初めて明らかにされた。ただし肝切除術前に行われる化学療法の意義については、CPT-11が脂肪性肝炎、L-OHPが”blue Liver”と呼ばれる線維性肝変性という副作用をもたらすことも明らかになっているため、肝転移病巣を切除する以前に行われるneoadjuvant chemotherapyについては、いまだ研究者達の間でのコンセンサスは得られていない。

  見習わなければならないこととしては、結腸癌に対する補助療法としてその有意の効果が確証されているMOSAIC試験(FOLFOX)、NSABP C-08試験(FLOX)の双方の追跡結果が今年のASCOでも公表されたことである。3年無再発生存率でどちらも明らかに有意の効果が証明され、すでにquality journalへの論文化も果たされているにもかかわらず、すべての症例を依然としてきっちりと経時的に追跡し、毎年その結果を世界中に発表し続けていることは、欧米の臨床研究のレベルの高さと、真実を明らかにすることをもっとも大切なことと考えている研究者の熱意と倫理性によるものと高く評価すべきであり、日本における臨床研究においても、かかる報告を継続することが重要な課題であると考えている。
  この点においては欧米の臨床研究者達の姿勢に大きな共感を覚えており、日本の臨床研究が汎く認知され、高く評価されるためには、わが国からも論文の採択をもって研究すべての成功、完了とせず、さらに標準治療の確定に関して決定的な影響をもたらすphase III研究については、論文発表後においても長期間にわたる追跡調査の結果を世界へ発信し続けることが必要であることを認識すべきであろう。
2007年を振り返ってのトップへ このページのトップへ