2015年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート
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Abstract #507
ビタミンDが切除不能進行・再発大腸癌の生存に及ぼす影響:CALGB/SWOG 80405 (Alliance試験)の結果
Vitamin D Status and Survival of Metastatic Colorectal Cancer Patients: Results from CALGB/SWOG 80405 (Alliance)
Kimmie Ng, et al.
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ビタミンD投与による生存延長の可能性は?

岩本 慈能 先生

関西医科大学附属枚方病院
消化管外科

 ビタミンDの血中濃度により化学療法の効果、OSに関して血中濃度の高いほうが予後良好であったという報告である。これまで疫学調査によってビタミンDの摂取が大腸癌の罹患率と相関するという報告があり、動物実験でも同様の効果が示されている。
 ビタミンDの血中濃度は血液の採取時期 (季節) や地域 (緯度) などの日照時間に関する要素によって変動することが知られている。また、年齢・性別や活動性、BMIによっても変動することが知られている。この演題では、血中濃度が最低値群と最高値群では、最高値群においてOSが8.1ヵ月、PFSが2.1ヵ月の延長が認められたと報告されており、年齢、季節などによる補正を加えても優越性が証明されている。この結果はビタミンDにおいて、①血中濃度そのものが予後因子であること、②PSや臓器機能などの化学療法に対して有利な因子であること、③化学療法の抗腫瘍効果を生物学的に増強すること、などが考えられるが、現時点でその機序を明らかにすることは困難であると考えられる。ビタミンDの投与による抗腫瘍効果については無作為化第II相試験が計画されており、その結果により行われるであろう第III相試験において抗腫瘍効果が確認できれば、より安価で手軽なサプリメントであるビタミンDによる併用療法が行われるようになるであろう。
背景と目的
 ビタミンDは細胞増殖や血管新生を阻害し、細胞分化やアポトーシスを誘導するとともに、抗炎症作用を有することが知られているが、大腸癌細胞にはビタミンD受容体 (VDR) の発現がみられ、VDR発現が高度な細胞ほど抗増殖作用が強いことが示されている1)。また、APCminマウスの実験では、ビタミンD投与により腫瘍量が減少したが2)、VDR欠損APCminマウスでは腺腫の数が増加し、サイズが増大3)することが示され、血漿25(OH)D低値は大腸癌のリスクと関連することが報告されている4)。また、Ng氏らによる大腸癌304例の前向きコホート研究では、ビタミンD値が最も高い四分位の患者は、最も低い四分位の患者に比べ生存率が48%改善することが認められている5)
 今回は、切除不能進行・再発大腸癌患者を対象としたCALGB 80405試験の事前に規定された前向き観察コホート試験として、ビタミンDと生存との関連性について検討された。
対象と方法
 CALGB 80405試験は、最終的な試験デザインではKRAS 野生型患者においてCetuximab群とBevacizumab群が比較検討されたが、当初の試験デザイン (KRAS 変異によらずCetuximab + Bevacizumab群を含めた3群比較試験) (図1) で登録された2,334例のうち、血漿25(OH)Dの評価が行われた1,043例を対象とした (図2)。なお、血漿25(OH)Dの測定は治療開始前に放射免疫測定法で行い、主要評価項目はOSであった。
図1
図2
結果
 血漿25(OH)Dが評価された1,043例の患者背景は、最終試験デザインにおける患者背景とほぼ同等であり、年齢中央値60歳、男性58%、ECOG PS 0が61%で、化学療法レジメンはFOLFOX 77%、FOLFIRI 23%であった。
 全体の血漿25(OH)D 中央値は17.2ng/mLであった。五分位解析では血漿25(OH)D値が高いほど、男性が多い (p=0.004)、アフリカ系アメリカ人が少ない (p<0.0001)、PS 1に比べて0が多い (p=0.002)、RAS 野生型に比べてRAS 変異型が少ない (p=0.02) などの特徴がみられた (表1)。また、血漿25(OH)D値は、米国北部/北東部の住人 (p<0.0001)、冬期および春期に測定した症例 (p=0.03)、肥満者 (p=0.0006)、身体活動性が低い症例 (p=0.004)、ビタミンD補給を行っていない症例 (p<0.0001) で有意に低かった。
表1
 OSは血漿25(OH)D値が高いほど良好で、最高値群 (Q5) は低値群 (Q1+Q2) に比べ有意に優れ (p=0.01)、最高値群の中央値は最低値群 (Q1) よりも約8ヵ月延長した (図3)。また、PFSも最高値群は低値群に比べ有意な延長を認めた (図4)
図3
図4
 OSの多変量解析では、最高値群 (Q5) の最低値群 (Q1) に対する補正後ハザード比は0.65 (95% CI: 0.51-0.83, p trend=0.001) であり、35%の改善が認められた (図5)。同様にPFSの多変量解析では、最高値群で21%の改善効果が得られた (補正後HR=0.79, 95% CI: 0.63-0.99, p trend=0.01)。なお、OSのサブグループ解析では、事前に規定されたすべてのサブグループにおいて、血漿25(OH)D値が高いほどOSが良好な傾向が認められた。
図5
結論
 切除不能進行・再発大腸癌患者はビタミンD欠乏の頻度が高く、ビタミンD値が高い患者ほどOSおよびPFSが有意に優れていた。現在、FOLFOX + Bevacizumabの補助療法としてのビタミンD補給の効果を検討する無作為化第II相試験が進行中である。
Reference
1) Evans SR, et al.: Clin Cancer Res. 4(11): 2869-2876, 1998[PubMed
2) Huerta S, et al.: Cancer Res. 62(3): 741-746, 2002[PubMed
3) Zheng W, et al.: Int J Cancer. 130(1): 10-19, 2012[PubMed
4) Ma Y, et al.: J Clin Oncol. 29(28): 3775-3782, 2011[PubMed
5) Ng K, et al.: J Clin Oncol. 26(18): 2984-2991, 2008[PubMed