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アスピリン常用がPIK3CA 変異型の切除不能進行・再発大腸癌患者の生存に及ぼす影響
Regular Aspirin Use and Survival in Patients with PIK3CA Mutated Metastatic Colorectal Cancer
Nishi Kothari, et al.
アスピリンが大腸癌治療の標準治療になる日は来るのか?
結果は、既報と異なり残念ながらPIK3CA 変異陽性患者においてもアスピリン使用による生存改善は明らかではなかった。欧米の医師のなかには、既にPIK3CA 変異陽性大腸癌患者にアスピリンを処方しているという意見もあったが、今回の発表からはその根拠はまだまだ乏しいと言わざるを得ない。今後は、PIK3CA 変異陽性患者を対象とした無作為化比較試験によりアスピリンの有用性を明らかにしていく必要があるだろう。少なくとも2つの先行研究で認められていたような大きなベネフィットなく、アスピリンの至適投与量や投与期間、作用機序など明らかにすべき点が残されたままである。個人的には本発表前への期待が大きかっただけに、残念な結果発表であった。
アスピリンの常用により、大腸癌 (特に右側) の発症率が低下することが示されている2)。一方、発癌にはPI3Kシグナル伝達経路が重要な役割を担い、大腸癌患者の約15%にPIK3CA 変異が認められる。また、PI3Kシグナル伝達経路の恒常的活性化はCOX-2活性と相互作用を示す。アスピリンはCOX-2の阻害作用を有することから、PI3Kシグナルを減弱させ、PIK3CA 変異型大腸癌細胞にアポトーシスを誘導する可能性が指摘されている。
そこで、切除不能PIK3CA 変異型大腸癌患者において、アスピリン常用が生存に及ぼす影響について検討を行った。
そこで、切除不能PIK3CA 変異型大腸癌患者において、アスピリン常用が生存に及ぼす影響について検討を行った。
1996〜2009年にオーストラリアのRoyal Melbourne HospitalおよびWestern Hospitalで大腸癌と診断された1,019例に対し、サンガー法によるDNAシークエンシングを行い、112例にPIK3CA exon 9, 20の変異を認めた。また、1998〜2010年に米国のMoffitt Cancer Centerとその関連施設で大腸癌と診断された468例に対し、Illumina社の次世代シーケンサーを用いたターゲット化エクソーム・シークエンシングを行い、73例にPIK3CA 変異を認めた。これらPIK3CA 変異型の大腸癌患者185例を対象に、アスピリン使用の有無別に治療効果の解析を行った。
PIK3CA 変異型の大腸癌患者185例のうち、アスピリン使用群が49例、非使用群が136例であった。患者背景のうち、年齢中央値はアスピリン使用群74歳、非使用群70歳で有意差が認められた (p=0.009)。また、原発部位は、アスピリン使用群が右側41%、左側59%、非使用群はそれぞれ64%、35%であり、有意差が認められた (p=0.006)。
全stageの解析では、OSはアスピリン使用群と非使用群で差はみられず (HR=0.96, p=0.86) (図1)、癌特異的生存はアスピリン使用群で良好な傾向がみられたものの有意差を認めなかった (HR=0.60, p=0.14) (図2)。多変量解析では、OSは年齢別 (HR=1.41, 95% CI: 1.10-1.82, p=0.008) およびstage別 (HR=2.13, 95% CI: 1.60-2.84, p<0.001) で有意差を認め、癌特異的生存はstage別 (HR=3.61, 95% CI: 2.41-5.23, p<0.001) で有意差を認めた。
全stageの解析では、OSはアスピリン使用群と非使用群で差はみられず (HR=0.96, p=0.86) (図1)、癌特異的生存はアスピリン使用群で良好な傾向がみられたものの有意差を認めなかった (HR=0.60, p=0.14) (図2)。多変量解析では、OSは年齢別 (HR=1.41, 95% CI: 1.10-1.82, p=0.008) およびstage別 (HR=2.13, 95% CI: 1.60-2.84, p<0.001) で有意差を認め、癌特異的生存はstage別 (HR=3.61, 95% CI: 2.41-5.23, p<0.001) で有意差を認めた。
Stage別の解析では、stage IIの66例 (HR=1.34, 95% CI: 0.22-5.81, p=0.67)、stage IIIの67例 (HR=0.85, 95% CI: 0.30-2.40, p=0.76) のいずれもアスピリン使用による無再発生存の改善はみられなかった。
一方、stage IVの44例においてはアスピリン使用によりOSに良好な傾向がみられた (HR=0.40, p=0.06) (図3)。Stage IVの単変量解析および多変量解析では、いずれも原発部位が右側の場合にOSが有意に良好であった (単変量解析HR=0.44, 95% CI: 0.21-0.95, p=0.035; 多変量解析HR=0.43, 95% CI: 0.20-0.95, p=0.037)。
一方、stage IVの44例においてはアスピリン使用によりOSに良好な傾向がみられた (HR=0.40, p=0.06) (図3)。Stage IVの単変量解析および多変量解析では、いずれも原発部位が右側の場合にOSが有意に良好であった (単変量解析HR=0.44, 95% CI: 0.21-0.95, p=0.035; 多変量解析HR=0.43, 95% CI: 0.20-0.95, p=0.037)。
大規模なデータセットを用いたにもかかわらず、全stageのPIK3CA 変異型大腸癌ではアスピリンによる生存ベネフィットが確認できなかった。Stage II/IIIにおける無再発生存の改善も認めなかったが、stage IVでは生存ベネフィットをもたらす傾向がみられた。今後、効果予測因子としてのPIK3CA 変異を検討するためには、前向きな無作為化試験が必要である。