ESMO 2014 演題レポート
2014年9月26日〜9月30日にスペイン・マドリッドにて開催された ESMO 2014 Congressより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌

Abstract #LBA13

標準治療に抵抗性となった切除不能進行・再発大腸癌患者に対するTAS-102のプラセボ対照第III相試験:RECOURSE試験
Phase III RECOURSE Trial of TAS-102 vs. Placebo, with Best Supportive Care (BSC), in Patients (pts) with Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) Refractory to Standard Therapies
Eric Van Cutsem, et al.
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Expert's view

分子標的治療薬時代の新たな代謝拮抗薬TAS-102

市川 度 先生

昭和大学藤が丘病院
腫瘍内科

 RECOURSE試験は、2種類以上の標準化学療法に不応または不耐となった切除不能進行・再発大腸癌患者に対してTAS-102単剤投与の有効性を検討した国際共同第III相試験である。この結果は、編集委員の吉野先生がまずWCGC 2014 (ESMO-GI) のOral Sessionで発表した。主要評価項目であるOSの中央値は、TAS-102群7.1ヵ月、プラセボ群5.3ヵ月と、TAS-102群で有意な延長を示した (HR=0.68, p<0.0001) 。
 今回は、Van Cutsem先生がサブグループ解析の結果を追加して発表した。OS、PFSに関するサブグループ解析では、すべてのサブグループにおいてTAS-102群で良好である。試験薬が良好な方向にプロットがここまでそろって並ぶサブグループ解析はまれであり、代謝拮抗薬の潜在能力の高さを今更ながら感じる。TAS-102の効果が、Regorafenibの前治療の有無によらないことが示された意義は大きく、手足症候群を中心に毒性が多岐にわたるRegorafenibと比較して、TAS-102は好中球減少症を主とし毒性のプロファイルは比較的単純で忍容性も高そうである。原則的には、TAS-102の適応は、Regorafenibを含む標準治療が無効になった (不応) 症例または毒性のため治療継続が困難になった (不耐) 症例であるが、実臨床の現場においては、この2剤を毒性プロファイルで使い分けることも許容されるであろう。
背景と目的

 TAS-102はTrifluridine (FTD) とTipiracil Hydrochloride (TPI) を配合した経口のヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤である。FTDは直接DNAに取り込まれ、抗腫瘍効果を発揮するが、経口投与すると代謝により血中濃度が維持されないため、FTDの代謝酵素であるチミジンホスホリラーゼを阻害するTPI が配合されている。
 RECOURSE試験は、3rd-line以降の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象としてTAS-102の有効性を検証した国際共同第III相試験である。
対象と方法

 2012年6月〜2013年10月にかけて、13カ国、114施設が参加して800例を目標として患者登録が行われた。対象は2種類以上の標準化学療法[フッ化ピリミジン系製剤、Irinotecan (CPT-11)、Oxaliplatin (L-OHP)、Bevacizumab、抗EGFR抗体薬]による治療歴があり、ECOG PS 0/1の切除不能進行・再発大腸癌患者とし、TAS-102 (35mg/m2/b.i.d, day 1-5, 8-12, 4週毎) + BSC (best supportive care) を行う群 (TAS-102群) とプラセボ + BSCを行う群 (プラセボ群) に2:1に無作為に割り付けられた。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、安全性、忍容性、TTF (time to treatment failure)、奏効率、病勢コントロール率、DoR (deepness of response)、KRAS サブグループ解析であった。
結果

 TAS-102群 (534例) とプラセボ群 (266例) の間に患者背景の偏りはなく、平均年齢は63.0歳、日本人が約3分の1、西洋人が約3分の2で、KRAS 変異型が約半数を占めた。追跡期間中央値は8.3ヵ月であった。
 主要評価項目であるOSの中央値は、TAS-102群7.1ヵ月、プラセボ群5.3ヵ月であり、TAS-102群で有意な延長を認めた (HR=0.68, 95% CI: 0.58-0.81, p<0.0001) (図1)。サブグループ解析ではいずれにおいてもTAS-102群で良好であり (図2) 、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析の結果、効果予測因子は同定されず、転移の初回診断からの期間、ECOG PS、転移個数は予後因子であった。なお、約4割は本試験の後治療として全身化学療法を受けていたが、両群間の後治療に偏りはなかった。
図1
図1
図2
図2
 PFSの中央値は、TAS-102群2.0ヵ月、プラセボ群1.7ヵ月とTAS-102群で有意に延長し (HR=0.48, 95% CI: 0.41-0.57, p<0.0001) (図3)、すべてのサブグループで一貫してTAS-102群が良好であった (図4)。また、ECOG PS が2以上に悪化するまでの期間を検討したところ、中央値はTAS-102群5.7ヵ月、プラセボ群4.0ヵ月であり、TAS-102群で有意な延長を認めた (HR=0.66, 95% CI: 0.56-0.78, p<0.0001)。
図3
図3
図4
図4
 TAS-102は忍容性が良好であり、比較的頻度の高い有害事象は消化器毒性 (悪心、食欲不振、下痢、嘔吐など) (表1) と血液毒性であり (表2)、発熱性好中球減少症は3.8%であった。なお、虚血性心イベントは0.4%、血栓塞栓性イベントは3.9%にみられ、重篤な有害事象の頻度はTAS-102群が29.6%、プラセボ群が33.6%であった。
表1
表1
表2
表2
結論

 標準治療に不応または不耐となった切除不能進行・再発大腸癌患者に対するTAS-102の投与は忍容性が良好であり、プラセボと比較してOSおよびPFSを有意に改善することが示された。
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