ESMO 2014 演題レポート
2014年9月26日〜9月30日にスペイン・マドリッドにて開催された ESMO 2014 Congressより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
会場写真
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大腸癌

Abstract #551P

PLANET試験におけるRAS 解析:肝限局転移を有するKRAS 野生型大腸癌患者に対するFOLFOX4またはFOLFIRI + Panitumumabの第II相試験
RAS Analysis of the PLANET Study: Phase II Trial of Panitumumab (Pmab) plus FOLFOX4 or FOLFIRI in Subjects with Wild-type (WT) KRAS Colorectal Cancer (CRC) and Liver-limited Disease (LLD)
Albert Abad, et al.

Expert's view

RAS 野生型における切除率に異変あり

岩本 慈能 先生

関西医科大学附属
枚方病院
消化管外科

 大腸癌肝限局転移に対するFOLFIRI/FOLFOX + Panitumumabの臨床第II相試験 (PLANET試験) におけるRAS の追加解析であり、2014年米国臨床腫瘍学会年次集会での報告 (#3560) とほぼ同様の報告である。KRAS exon 2野生型が適格症例として登録されFOFIRI/FOLFOXにそれぞれ割り付けられたが、肝転移は4個以上、少なくとも1個は10cm以上、技術的に切除不能のいずれかが条件となっており、肝切除が困難な症例が対象となっている。
 今回の報告ではminor RAS の変異率は17.2%となっており、他の報告と大きな隔たりはなさそうである。無作為化第II相試験であるものの、FOLFOX、FOLFIRIの比較では、奏効率ではFOLFOX群がやや上回ったものの、切除率はFOLFILI群が上回った。また、2014年米国臨床腫瘍学会年次集会の報告において、RAS 野生型、RAS 変異型の比較では、奏効率はRAS 野生型のほうがより良好であり、RAS 野生型はKRAS 野生型と比較して、FOLFOX群とFOLFIRI群の両群いずれも、わずかではあるが奏効率が向上していた。一方、今回の報告をあわせると、FOLFOX群における切除率、R0 + R1切除率については、RAS 野生型はKRAS 野生型より低下している (表)。少数例でのデータであり断定的な解釈はできないが、FOLFOX4 + Panitumumabでは、KRAS 野生型からRAS 野生型に限定することで、奏効率では改善するものの切除率は低下するという矛盾が生じている。RAS 野生型における抗EGFR抗体薬とFOLFOXの併用について一考させられる現象である。
 治療群奏効率(%)切除率(%)R0 + R1切除率 (%)
KRAS 野生型
(2014年米国臨床腫瘍学会年次集会)
FOLFOX + Panitumumab73.744.734.2
FOLFIRI + Panitumumab66.759.046.2
RAS 野生型
(ESMO2014)
FOLFOX + Panitumumab77.837.025.9
FOLFIRI + Panitumumab73.169.253.8
背景と目的

 PLANET試験は、肝限局転移を有するKRAS 野生型大腸癌患者に対するFOLFOX4 + PanitumumabとFOLFIRI + Panitumumabについて検討した、オープンラベル無作為化第II相試験である (図1)。本報告では、プロトコールで事前に規定されたサブ解析として、KRAS exon 2変異以外のRAS 変異に関する有効性について検討した。
図1
図1
対象と方法

 対象は、Karnofsky PS≧70%で、肝限局転移を有するKRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌であり、試験全体の主要評価項目は治療期間全体の奏効率、副次評価項目は肝転移切除率 (R0 + R1)、PFS、OS、有害事象と周術期の安全性などであった。KRAS exon 2 (codon 12, 13) に加え、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146)、NRAS exon 2 (codon 12, 13)、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146) の変異を中央判定し、本サブ解析の探索的評価項目として変異の有無別の奏効の評価を行った。
結果

 本試験に登録された77例のうちKRAS exon 2以外のRAS 変異の解析が可能だったのは64例 (83.1%) であり、11例 (17.2%) で新たにRAS 変異が認められた (図2)
図2
図2
 試験全体の奏効率は70.1%で、FOLFOX4 + Panitumumab群73.7%、FOLFIRI + Panitumumab群66.7%であった。一方、RAS status確定例における奏効率は、RAS 野生型75.5% (図3)RAS 変異型54.6%であった。
 RAS 野生型の52.8%で術前療法後に外科的切除が行われ (図3)、切除不能例 (39例) の53.8%で外科的切除が可能となった。RAS 野生型におけるR0 + R1切除率は39.6%で (図3)、R0切除率32.1%、R1切除率7.5%であった。
図3
図3
 RAS 野生型はRAS 変異型に比べてPFS (中央値13.4 vs. 12.6ヵ月, p=0.346) およびOS (中央値44.7 vs. 31.4ヵ月, p=0.621) で良好な傾向がみられたものの有意差は認めなかったが (図4)、これはサンプル数が少ないためと考えられた。
 RAS 野生型における治療群別の検討では、FOLFOX4 + Panitumumab群とFOLFIRI + Panitumumab群との間にPFS (12.8 vs. 14.8ヵ月, Wilcoxon検定p=0.675)、OS (39.0 vs. 45.8ヵ月, Wilcoxon検定p=0.634) いずれも有意差は認められなかった。また、RAS 変異型でも同様に治療群間に有意差は認められなかった。
図4
図4
図5
 RAS 野生型におけるgrade 3/4や重篤な治療関連有害事象の頻度は治療群間で差はなく、切除例の周術期の有害事象にも有意差は認めなかった (表1)。一方、grade 3/4の好中球減少および末梢神経障害はFOLFOX4 + Panitumumab群で多い傾向がみられた (表2)。なお、RAS 野生型においてFOLFOX4 + Panitumumab群11例 (40.7%)、FOLFIRI + Panitumumab群11例 (42.3%) が死亡したが、治療関連死はなかった。
表1
表1
表2
表2
結論

 サンプル数の少ないサブグループではあるものの、RAS 変異を有する患者はRAS 野生型の患者に比べ、明らかに有効性のアウトカムが不良となる傾向が認められた。肝限局転移を有する患者に対し、化学療法 + Panitumumabは迅速な奏効をもたらし、肝転移の治癒切除を可能にすることが示された。なお、2つの治療群で有効性および安全性の結果は類似していた。
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