ESMO 2012 演題速報レポート Vienna, Austria 28 September-2 October 2012
2012年9月28日〜10月2日にオーストリア・ウィーンにて開催されたThe 37th ESMO Congress, 2012より、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
ESMO 2012 演題速報レポート Vienna, Austria 28 September-2 October 2012
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肝細胞癌
Abstract #LBA2
SEARCH試験: 肝細胞癌 (HCC) におけるSorafenib vs. Sorafenib + Erlotinib療法のプラセボ対照二重盲検無作為化比較第III相試験
SEARCH: A phase III, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Sorafenib plus Erlotinib in Patients with Hepatocellular Carcinoma (HCC)
A.X. Zhu, et al.

Expert's view
肝細胞癌における分子標的薬剤2剤併用はまだ難しいか?
神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科 辻 晃仁 先生

 従来、消化器癌の化学療法としての分子標的薬2剤併用は、Tolらの報告1) やHechtらの報告2) により否定的な意見が多かった。
 ところが近年はDREAM試験としてBevacizumabを含む1st-line化学療法後に分子標的薬による維持療法としてのBevacizumab + Erlotinibの有用性の報告がなされたり、癌腫は異なるもののBRAF V600遺伝子変異陽性のメラノーマ (悪性黒色腫) で、標準治療薬であるBRAF阻害剤Vemurafenib単独療法に対して、BRAF阻害剤DabrafenibとMEK阻害剤Trametinibを併用することによって、治療成績が向上したとの結果などが報告され3)、期待が高まるところであった。このため今回のHCCにおける分子標的薬2剤の併用療法の結果も期待されていた。
  しかしながら今回、SorafenibとErlotinibの併用療法については有用性が示されなかった。これらはマルチキナーゼ阻害剤であるSorafenibとEGFRチロシンキナーゼを選択的に阻害するErlotinibの毒性、効果が重なり合ったためかもしれない。今後の分子標的薬剤併用においては、新たなdriver mutationの検討や、成功例のメラノーマなどのように作用機序や薬剤の毒性のプロファイルの重複しない相補的な薬剤の選択なども重要であると思われる。

背景と目的

 SorafenibはRaf/MEK/ERKを標的とする経口マルチキナーゼ阻害剤で、VEGFRやPDGFRなどの血管新生や細胞増殖にかかわるシグナル伝達経路を阻害することにより、癌の増殖を抑えることが示されている4)。また、切除不能肝細胞癌 (HCC) において生存の有用性が認められており、保険承認されている唯一の分子標的薬である5, 6)
 一方、ErlotinibはEGFRのチロシンキナーゼを選択的に阻害する経口分子標的治療薬で、非小細胞肺癌や進行膵癌について承認されている7-9)。また、切除不能HCCに対しては2つの単アーム第II相試験により、有効性・安全性が示されている10, 11)
 また、SorafenibとErlotinibの併用療法については、非小細胞肺癌において安全性・忍容性・有効性が示されている12-15)
 そこで今回、切除不能HCCの1st-line治療として、Sorafenib + Erlotinib併用療法とSorafenib単独療法の有効性・安全性を比較検討した。

対象と方法

 SEARCH試験は、切除不能HCCにおけるプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験であり、欧州、北・南アメリカ、アジア太平洋地域の26ヵ国による国際共同研究である。
 対象はChild-Pugh分類A、ECOG PS 0/1の進行・再発HCC患者720例であり、Sorafenib (400mg bid) + placebo (150mg qd) 群と、Sorafenib (400mg bid) + Erlotinib (150mg qd) 群とに無作為に1:1に割り付けた。なお、主要評価項目はOS (overall survival) で、副次的評価項目はTTP (time to progression)、病勢コントロール率、安全性であった。統計学的仮説は期待OSの中央値を33%増加と設定し、検出率90%、片側α=0.025としたところ、521イベント達成が必要とされた。

結果

 Sorafenib + placebo群に358例、Sorafenib + Erlotinib群に362例が割り付けられ、患者背景に偏りはなかった。なお、1日投与量においては両群間に差はみられなかったが、投与期間中央値はSorafenib + Erlotinib群で2.8ヵ月と、Sorafenib + placebo群の4.0ヵ月よりも短い傾向にあった。また、治療関連有害事象は、ざ瘡、皮疹/落屑、食欲不振、下痢、口内炎などにおいて、Sorafenib + Erlotinib群で高い傾向にあった

 主要評価項目のOSは、Sorafenib + placebo群8.5ヵ月、Sorafenib + Erlotinib群9.5ヵ月で有意差は認められなかった (HR=0.929, 95%CI: 0.781-1.106, p=0.204)

 また、副次評価項目であるTTPにおいてもSorafenib + placebo群4.0ヵ月、Sorafenib + Erlotinib群3.2ヵ月であり、有意差は認められなかった (HR=1.135, 95%CI: 0.944-1.366, p=0.91)。奏効率はそれぞれ4%、7%と有意差は認められなかったが、Sorafenib + Erlotinib群で良好な傾向であった。一方、病勢コントロール率はそれぞれ53%、44%と、Sorafenib + placebo群で有意に高かった (p=0.0104)。
 人種別の患者背景においては、アジア太平洋地域では年齢中央値が55歳と、その他の地域 (57〜64歳) に比べ若年傾向にあり、B型肝炎はそれぞれ74〜83%、16〜23%とアジア太平洋地域で多い傾向がみられた。なお、OS中央値については、アジア太平洋地域では7.4〜7.6ヵ月と、他の地域の8.5〜10.5ヵ月と比べ短い傾向がみられた

結論

 SEARCH試験においてSorafenibとErlotinibの併用療法は、Sorafenib単独療法に比べOS、TTPで有意な改善を示さなかった。
 奏効率はSorafenib + Erlotinib群で高い傾向にあったが、病勢コントロール率はSorafenib + placebo群で有意に高かった。また、1日投与量は両群で類似していたが、治療期間はSorafenib + Erlotinib群が短かった。両薬剤の安全性は既知のプロファイルと同様であったが、発生率はSorafenib + Erlotinib群で増加していた。
 本試験結果により、Sorafenib単独療法が現状の通り切除不能HCCの標準治療であることが確認された。なお、本試験におけるバイオマーカー、薬物動態による解析が進行中である。

Reference
1) Tol J, et al.: N Engl J Med. 360(6): 563-572, 2009 [PubMed
2) Hecht JR, et al.: J Clin Oncol. 27(5): 672-680, 2009 [PubMed
3) Jeffrey S, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #8510
4) Wilhelm SM, et al.: Cancer Res. 64(19): 7099-7109, 2004 [PubMed
5) Llovet JM, et al.: N Engl J Med. 359(4): 378-390, 2008 [PubMed
6) Cheng AL, et al.: Lancet Oncol. 10(1): 25-34, 2009 [PubMed
7) Lee YS, et al.: Arch Pharm. 338(10): 502-505, 2005 [PubMed
8) Shepherd FA, et al.: N Engl J Med. 353(2): 123-132, 2005 [PubMed
9) Moore MJ, et al.: J Clin Oncol. 25(15): 1960-1966, 2007 [PubMed
10) Philip PA, et al.: J Clin Oncol. 23(27): 6657-6663, 2005 [PubMed
11) Thomas MB, et al.: Cancer. 110(5): 1059-1067, 2007 [PubMed
12) Duran I, et al.: Clin Cancer Res. 13(16): 4849-4857, 2007 [PubMed
13) Lind JS, et al.: Clin Cancer Res. 16(11): 3078-3087, 2010 [PubMed
14) Gridelli C, et al.: Ann Oncol. 22(7): 1528-1534, 2011 [PubMed
15) Spigel DR, et al.: J Clin Oncol. 29(18): 2582-2589, 2011 [PubMed