本報告の元の試験 (PRIME試験) は、昨年の米国臨床腫瘍学会年次集会において最終報告がなされており、KRAS 野生型において、Panitumumab併用群では、OS (overall survival) 中央値が23.9ヵ月、単独群19.7ヵ月と、併用群で良好な傾向を認めたものの有意差が示せなかった。
今回の報告は、簡単にいうと、QOLを加味した生存期間を考慮した「toxicity-adjusted time without symptoms and toxicity (TWiST) 」という考え方に基づき、この試験を再解析したものといえる。結果は、質的調整OS (overall survival) は併用群14.0ヵ月、単独群13.0ヵ月と小さくなったものの、その差の1.0ヵ月が有意な上乗せ (p=0.04) という結果になった。正確な解釈とはいえないが、いずれのアームもそれなりの副作用を伴うため、Panitumumabの上乗せによる副作用増強がある期間を見込んでも、QOLの高い生存期間の延長が併用群に1ヵ月あった、と捉えるのが現実的であろう。
現在の臨床試験の結果は、OS、PFS (progression-free survival) という絶対的な数字で判断され、QOL解析は別途実施された場合にそのあり方が議論されている。したがって、QOL解析の結果をどう優越性の判断に組み込むのかは統一されておらず、客観的判断が困難な状況である。Q-TWiST解析はそれを何とか科学的に示そうと最近実施されている解析ではあるが、この解析とて研究途上であり、本当にQOLを良く示した解析となっているかどうかの確固たる評価はない段階ではある。しかし、臨床試験は医師だけがその結果 (数字) をみて自己満足するものではなく、真の意味で患者のためになる治療法を選ぶための試験・指標となるべきものなので、このような取り組みは今後も続けられ検討されることが望ましい。
臨床試験におけるOSやPFSなどの有効性および安全性には一般的な解析法が用いられており、その結果はそれぞれ独立している。生存に関する質的調整解析であるQ-TWiST (quality-adjusted time without symptoms or toxicity) 解析は、増悪、生存、毒性などを統合した臨床的ベネフィットの評価法である1, 2)。本評価法を用いてPanitumumab + FOLFOX併用療法またはFOLFOX単独療法の施行例について、臨床的ベネフィットを比較した。
切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療におけるPanitumumab + FOLFOX療法 vs. FOLFOX療法の無作為化第III相試験であるPRIME試験のデータを解析対象とした。今回の補正Q-TWiST解析では、生存期間のパラメトリックモデルをKaplan-Meier法のノンパラメトリック法に変更し、モデル母集団の分布について一切の仮定を設けないものとした。各治療群の生存曲線をワイブル分布によって、下記の3つの健康状態に分類した。
TOX (toxicity) | : | 病勢進行前にgrade 3/4の有害事象が認められた期間 |
TWiST (time without symptoms or toxicity) : 病勢進行前に有害事象がない期間 | ||
TWiST平均値 = PFS平均値 − TOX平均値 | ||
---|---|---|
REL (relapse) | : | 病勢進行から死亡または追跡終了までの期間 |
REL平均値 = OS平均値 − PFS平均値 |
Q-TWiST = (U TOX × TOX) + (U TWiST × TWiST) + (U REL × REL)
PRIME試験のITT解析対象となった1,183例のうち、KRAS 野生型患者656例 (Panitumumab + FOLFOX4群325例、FOLFOX4群331例) をQ-TWiST解析の対象とした。最長観察期間は、有害事象では10.9ヵ月、PFSでは27.6ヵ月、OSでは35.1ヵ月であった。
PRIME試験のQOL調査票により得られた効用値を用いて、TOX + TWiST (質的調整PFS) およびQ-TWiST (質的調整OS) を算出した。
質的調整PFSはPanitumumab + FOLFOX4群8.48ヵ月、FOLFOX4群7.22ヵ月 (差1.26ヵ月, p=0.0155)、質的調整OSはPanitumumab + FOLFOX4群22.42ヵ月、FOLFOX4群18.60ヵ月であり (差3.82ヵ月, p=0.0383)、いずれもPanitumumab + FOLFOX4群において有意な延長がみられた。
なお、観察期間24ヵ月に限定した解析結果では、質的調整OSは小さくなったものの、Panitumumab + FOLFOX4群14.0ヵ月、FOLFOX4群13.0ヵ月と、1.0ヵ月の有意な上乗せが認められた (p=0.04)。
Q-TWiST解析において、KRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対するFOLFOXとPanitumumab併用療法はFOLFOX単独療法と比較して質的調整OSを有意に改善したことを示した。