ESMO 2011 演題速報レポート Stockholm, Sweden September 23-27, 2011
2011年9月23日〜27日にスウェーデン・ストックホルムにて開催されたThe European Multidisciplinary Cancer Congress 2011 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌
Abstract #6009/6040
大腸癌肝転移に対するConversion therapy
 KRAS 野生型の大腸癌肝転移症例に対するCetuximabと化学療法の併用は高い奏効率を示し、転移巣の切除率が向上することがCELIM試験1) やCRYSTAL/OPUS試験の後解析2) において示されている。本レポートではCELIM試験の最新報告 (#6009) と、オーストラリアの大腸癌データベースを用いた肝限局転移症例に対する化学療法と臨床転帰の解析結果 (#6040) を取り上げる。
Expert's view
10個超の肝転移を有する症例では「肝切除」が長期予後に結びつかない可能性も
江見 泰徳 先生 済生会福岡総合病院 外科 九州大学大学院 消化器・総合外科
 CELIM試験は、切除不能な肝限局転移を有する大腸癌に対して、CetuximabとFOLFIRIまたはFOLFOXの併用療法の有効性を検討したオープンラベル無作為化比較第II相試験である。主要評価項目は奏効率として、肝切除率等も評価し、主解析結果はLancet oncology, 2010に既報である。今回はprogression-free survival (PFS)、disease-free survival (DFS)、overall survival (OS) など、生存解析について報告された (#6009)。
 全症例においても、KRAS 野生型に限局してもPFS、OSは、FOLFOX + Cetuximab群とFOLFIRI + Cetuximab群において差はなかった。既報にもあるように、奏効率、切除率 (R0切除率) においても、両治療法に差があるとは言えないことから、conversion therapyを考慮する際の抗EGFR抗体薬とのペアとしてのFOLFIRI療法の位置づけを、本邦における実臨床においても見直してもよいのかもしれない。
 生存期間のデータは概ね予想の範囲であったが、R0切除群のOSが中央値で46.7ヵ月であったのに対して、登録からのPFSの中央値が15.4ヵ月、R0切除からのDFSが9.9ヵ月と期待よりも短い印象であった。データから読み取れる30ヵ月以上の無再発生存症例は、R0切除36例中3例と10%未満である。初期切除不能な肝限局転移症例に対して、化学療法後に切除可能となった症例は長期予後が期待できることは間違いないが、「確実で多くの症例の治癒」もしくは「長期のCancer-free期間」はなかなか期待できないのかもしれない。10個超の肝転移を有する症例の場合には、化学療法後に肝切除可能な状態になっても、実際には「肝切除」が予後の延長には結びつかないかもしれない。この分野は、手術と化学療法という異なるmodalityが関与するため、欧米でも大規模な第III相試験は症例集積の点で困難かもしれない。肝切除可能性の判断基準など多くの難題はあるが、観察研究ではなく、前向きでコントロールされた大規模第II相試験等でデータを集積していく必要がある。
 一方、#6040では大腸癌データベースを用いた化学療法と肝切除の解析結果が報告された。本年の学会でも感じたことは、種々の国・地域において治療法などにも特化した詳細なデータを抽出できるデータベースを構築し、結果を出している。翻って本邦ではこの種のデータベースの構築の必要性すら議論されていないように感じる。データベースの維持・管理、とりもなおさず品質管理・品質保証には、膨大な労力と時間と、当然資金が必要である。内容はともかく、このデータベースを構築し、稼働し、結果発表に結びつけている豪・南オーストラリア州に敬意を表する。
Abstract #6009
大腸癌肝転移症例におけるFOLFOX、FOLFIRIにCetuximabを併用した術前補助化学療法のPFSとOSへの影響―CELIM試験の結果から
Progression Free and Overall Survival After Neoadjuvant Treatment of Colorectal Liver Metastases With Cetuximab Plus FOLFOX or FOLFIRI - Results of the CELIM Study
Gunnar Folprecht, et al.
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背景と目的
 CELIM試験は切除不能な肝転移を有する大腸癌患者に対し、術前補助化学療法としてのCetuximabとFOLFIRIまたはFOLFOXの併用療法の有効性を検討したオープンラベル無作為化比較第II相試験であり、主要評価項目である奏効率は既報の通りである1)。今回はCetuximabを併用した術前補助化学療法がPFSおよびOSに与える影響について報告する。
対象と方法
 対象は切除不能な肝転移を有する進行・再発大腸癌患者とし、肝臓以外の転移を有する患者は除外した。試験デザインを図1に示す。
図1
結果
 114例が登録され、うち111例がCetuximab + FOLFOX群 (56例) とCetuximab + FOLFIRI群 (55例) に無作為に割り付けられた。
 両群合わせた全体のPFSの中央値は10.8ヵ月 (95% CI: 9.3-12.2)、OSの中央値は33.1ヵ月 (95% CI: 25.8-40.4) であり、4年OSは28%であった。治療群ならびにKRAS 遺伝子変異の有無、肝切除の状態によるPFSとOSは表1の通りである。
表1
 Cetuximab + FOLFOX群およびCetuximab + FOLFIRI群におけるPFS、OSはほぼ同等であった。また、R0切除群では非R0切除群と比較し有意に生存期間を延長しており (HR=2.34, p=0.002)、R0切除群の3年および4年OSは各々64%、49%であった。ただし、DFS (切除から再発もしくは死亡までの期間) の中央値は9.9ヵ月であり、特に転移個数の多い患者では短期間で再発していた (図2)
図2
結論
 切除不能な肝転移を有する進行・再発大腸癌患者におけるCetuximab + 化学療法による術前補助化学療法後の肝切除は安全に施行され、肝切除が施行された群においては良好な生存を示した。ただし、R0切除群のDFSが10ヵ月に満たず、特に転移個数の多い患者で早期に再発していることから、肝切除の適応には多職種連携による患者選択が必要である。

Abstract #6040
大腸癌肝限局転移症例における外科的切除および化学療法の影響
Liver Only Metastatic Disease in Patients With Metastatic Colorectal Cancer (mCRC), Impact of Surgery and Chemotherapy.
Sarwan Bishnoi, et al.
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背景と目的
 転移巣の切除を考慮することは現在の大腸癌治療における標準的な戦略であり、転移巣の切除により治癒する可能性もある。また、近年の分子標的治療薬を含めた化学療法の進歩により、当初は切除不能であった転移巣が切除可能となる症例も増えている (Conversion therapy)。そこで、大腸癌肝限局転移患者において、化学療法が肝切除と臨床転帰にどのような影響を与えるのかを検討した。
対象と方法
 2006年2月に設立された豪・南オーストラリア州の切除不能進行・再発大腸癌データベースに登録されたデータを用いた。大腸癌肝限局転移患者における化学療法の肝切除への影響を検討するとともに、肝切除単独群 (R)、化学療法単独群 (C)、肝切除 + 化学療法群 (RC) の3群における臨床転帰を比較した。
結果
 全登録患者1,908例のうち、肝限局転移症例は687例 (36%) であった。解析対象症例における治療の内訳はR群が11.2% (77例)、C群が36.0% (247例)、RC群は19.2% (132例) であり、33.6% (231例) はいずれの治療も行われなかった。
 患者背景は表2に示す通りで、RC群では直腸を原発巣とする症例が非常に多かった。また、C群およびRC群では同時性肝転移が多かったのに対し、R群では異時性肝転移が多くみられた。
表2
 RC群132例において、術前化学療法が施行された症例は33.3% (44例)、術後化学療法が37.2% (49例)、術前・術後化学療法は29.5% (39例) であり、いずれもOxaliplatinベースの2剤併用療法が中心であった。また、術前・術後化学療法施行群では、術前にFOLFOXが使用された症例の41% (14/34例) で術後化学療法のレジメンが変更されていた。 R群およびRC群における肝切除の詳細は、R0切除が各々66% (51/77例)、76% (100/132例)、R1切除が7.8% (6/77例)、6% (8/132例) であった。
 R群77例中19例 (24.7%) で再発が認められ、14例で化学療法、4例で再切除、1例で再切除および化学療法が施行された。また、RC群では132例中32例 (24.2%) で再発が認められ、17例で化学療法、7例で再切除、8例で再切除および化学療法が施行された。
 1年/2年/3年生存率は、R群で各々94.4%/85.7%/73.6%、C群で64.1%/35.9%/18.9%、RC群では98.8%/89.9%/73.8%であった (図3)
図3
結論
 本検討においても従来通り、肝切除を施行された患者において生存期間の延長が認められた。また、化学療法および肝切除の両方を施行できた群で最も良好であった。
 肝切除が適応されなかった大腸癌肝限局転移患者の予後は予想通り不良であり、同時性肝転移で原発巣が結腸の患者に多い傾向がみられた。
Reference
1) Folprecht G, et al.: Lancet Oncol. 11(1): 38-47, 2010 [PubMed][論文紹介
2) Van Cutsem E, et al.: 2011 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #472
会場写真
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