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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 切除不能食道癌は治療法が限られており、予後不良であるため、新たな治療法が望まれている。一方、食道癌ではPD-1のリガンドであるPD-L1の高発現が認められ1,2)、PD-L1発現は予後不良因子とされてきた2,3)。また、飲酒や喫煙はマイクロサテライト不安定性 (MSI) を誘導することが報告されている4)

 PembrolizumabはPD-1に高い親和性を持つヒト化モノクローナル抗体であり、PD-1とそのリガンドであるPD-L1、PD-L2との結合を阻害し、癌免疫監視機構を活性化させる。今までにメラノーマ、非小細胞肺癌、頭頸部癌、胃癌等多くの癌腫においてその抗腫瘍効果が示されており、現在、30以上の癌腫において開発が進められている。本検討ではPD-L1陽性食道癌に対するPembrolizumabの効果と安全性について報告を行った。

対象と方法

 KEYNOTE-028試験は、PD-L1陽性固形癌に対するPembrolizumabのマルチコホート第Ib相試験である。食道癌コホートにおける対象は、食道または食道胃接合部の扁平上皮癌または腺癌患者であり、標準治療無効、ECOG PS 0/1で、自己免疫疾患の既往のない患者であった。Pembrolizumab (10mg/kg, 2週毎) は最長2年間、病勢進行または不耐となるまで継続された (図1)。また、奏効率は最初の6ヵ月は8週毎に、その後は12週毎に確認した。

 主要評価項目は奏効率 (RECIST v.1.1)、安全性 (CTCAE v.4)、副次評価項目はPFS、OS、奏効期間であった。

図1

結果

 PD-L1の評価が可能な83例中37例 (44.6%) がPD-L1陽性で、そのうち23例が本試験に参加した。患者背景は、年齢中央値65歳、82.6%が男性で、組織は扁平上皮癌73.9%、腺癌21.7%、粘膜表皮癌4.3%であった。また、前治療の回数は、3回以上47.8%、2回39.1%であり、治療歴がない症例は1例 (4.3%) であった。

 抗腫瘍効果については、完全奏効例は認めなかったもののPRを7例に認め、奏効率は30.4%であり、52.2%の症例で標的病変の縮小を認めた (図2)。なお、組織別の奏効率は、扁平上皮癌29.4% (17例中5例)、腺癌40.0% (5例中2例) であった。

図2

図3

 奏効までの期間中央値は16週であり、奏効期間中央値は40週であった (図4)。

図4

 治療関連有害事象は9例 (39.1%) に認め、grade 3/4はリンパ球数減少2例 (8.7%)、食欲減退1例 (4.3%)、肝障害1例 (4.3%)、そう痒性皮疹1例 (4.3%) に認めたが、治療関連有害事象による治療中止は認めなかった。

結論

 Pembrolizumabは治療歴のある食道癌においても奏効率30.4%を認めた。安全性も特に問題となるデータはなく、今後の応用が期待される。

コメント

 食道癌に対するPD-1を標的とした治療の初めての報告である。面白いことに胃癌とほぼ同等の成績であり、約半数の症例で抗腫瘍効果が認められ、奏効例は比較的長期間縮小が維持されている。今回の報告ではアジアの症例が多かったため、扁平上皮癌が約7割を占めていたが、組織型にかかわらず効果が示されていた。MSIや遺伝子変異の多い腫瘍でPD-1の発現が高く、抗PD-1抗体薬の効果が高いことが示唆されているが、あくまでも抗腫瘍効果を発揮しているのはリンパ球であることを考えると、樹状細胞などの抗原提示細胞やT細胞側からの効果予測のアプローチも必要となるように思われる。

(レポート:川崎 健太 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Cancer Genome Atlas Research Network: Nature. 513(7517): 202-209, 2014[PubMed
  2. 2) Chen L, et al.: Int J Clin Exp Pathol. 7(9): 6015-6023, 2014[PubMed
  3. 3) Ohigashi Y, et al.: Clin Cancer Res. 11(8): 2947-2953, 2005[PubMed
  4. 4) Vogelsang M, et al.: PLoS One. 7(5): e36962, 2012[PubMed

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