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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 これまで大腸癌に対する腹腔鏡下手術 (LAP) の短期的成績は示され、開腹手術 (OP) より優れている可能性が示唆されてきたが、その長期生存の評価は不明確であった。JCOG0404試験は、stage II/III大腸癌に対するD3郭清を伴ったLAPの非劣性を検証する無作為化比較試験であり、術後合併症を含めた短期成績は2012年に報告されている1)。今回は有効性に関する初回報告が行われた。

対象と方法

 適格基準は、病理組織学的に大腸癌と診断された患者で、腫瘍が回盲部、上行、S状または直腸S状部に位置し、T3、T4 (ただし他臓器浸潤は除く)、リンパ節転移N0-2、M0、腫瘍径が8cmよりも小さい20~75歳の治療歴のない症例とした。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は無再発生存期間 (RFS)、短期臨床転帰、有害事象などであり、必要な症例数は統計学的に1,050例と算出された。

結果

 2004年10月~2009年3月に1,057例がOP群 (n=528) およびLAP群 (n=529) に無作為に割り付けられた。患者背景は、OP群では男性312例、女性216例、LAP群では同282例、247例であり、年齢中央値は両群とも64歳であった (表1)。

表1

 OSについて、D3郭清を伴ったLAPの非劣性は認められず (HR=1.056, 90% CI: 0.790-1.413, p=0.0732)、3年OSはOP群95.8%、LAP群96.0%であり、5年OSはそれぞれ90.4%、91.8%であった (図1)。

図1

 RFSのHRは1.065 (95% CI: 0.822-1.381) であり、3年RFSはOP群82.1%、LAP群80.3%、5年RFSはそれぞれ79.7%、79.3%であった (図2)。

図2

 主な晩期毒性 (grade 2-4) は、便秘 (OP群6.0%、LAP群4.4%)、下痢 (それぞれ2.9%、2.7%)、麻痺性イレウス (1.2%、1.7%)、小腸イレウス (3.1%、2.1%) であった (表2)。

表2

結論

 Stage II/III大腸癌に対するLAPはOPに対して非劣性を示すことはできなかった。しかし、OSのグラフは両者でほぼ一致しており、LAPは治療選択肢の1つとして考えられる。

コメント

 JCOGで行われた大腸癌に対する開腹手術と腹腔鏡下手術との比較試験である。残念ながら予想よりもイベントが少なかったために統計学的に非劣性を証明することができず、試験としてはnegativeと言わざるを得ない。ただし、両術式共に安全性には問題がなく、生存曲線は殆ど重なっているため、腹腔鏡下手術をpracticeとして実施することには問題はないものと思われる。本試験の結果を受けて我が国の標準治療が変わる可能性があったが、試験としてはnegativeなため、ガイドラインの記載が変わることはなさそうである。手術が含まれる試験では予想よりもイベント数が不足することはしばしば経験され、特に非劣性試験では有意な結果を得ることが困難となる。試験のデザインや、sample sizeの設定に注意が必要である。

(レポート:川崎 健太 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Nishizawa Y, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3569
関連リンク
  1. 2012年米国臨床腫瘍学会年次集会 abst #3569「Stage II/III大腸癌に対する完全腸間膜切除を伴った腹腔鏡 vs. 開腹手術の無作為化比較第III相試験の短期臨床成績:JCOG0404 (NCT00147134)」

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