Discussion現地座談会

大腸癌における手術について

#3577:JCOG0404試験
Stage II/III大腸癌に対するD3郭清を伴った腹腔鏡下手術の開腹手術に対する非劣性を検証

室 (司会):2015年の米国臨床腫瘍学会年次集会も本日終了しました。そこで、今年も注目演題を取り上げてディスカッションしていきたいと思います。まずは外科の演題から、開腹手術 vs. 腹腔鏡下手術を検討したJCOG0404試験について、川崎先生からレポートしていただきます。

川崎:これまで、大腸癌に対する腹腔鏡下手術 (LAP) は開腹手術 (OP) より優れている可能性があることが短期的成績で示されていましたが、長期生存については不明確であったため、JCOG0404試験が行われました。
 T3、T4(ただし他臓器浸潤は除く)、リンパ節転移N0-2、M0で腫瘍径が8cm未満の未治療の大腸癌患者1,057例をOP群とLAP群に無作為に割り付け比較しました。その結果、主要評価項目のOSでLAP群の非劣性は認められず (HR=1.056, 90% CI: 0.790-1.413, p=0.0732)、5年OSはOP群90.4%、LAP群91.8%でした (図1)。主な晩期毒性は、便秘がOP群6.0%、LAP群4.4%、下痢がそれぞれ2.9%、2.7%、麻痺性イレウスが1.2%、1.7%、小腸イレウスが3.1%、2.1%です。
 結論として、LAPのOPに対する非劣性は示されませんでしたが、OS曲線は両群でほぼ一致したことから、LAPはstage II/III大腸癌に対する手術の選択肢の1つと考えられると示されていました。

室:寺島先生はどうお考えでしょうか。

寺島:OSが想像以上に良好であったため、残念ながらイベント不足でLAPの非劣性を証明できませんでした。ただ、OS曲線は重なっているため、どう解釈するかが問題です。「大腸癌治療ガイドライン 2014年版」の記載では、「腹腔鏡下手術の適応は、癌の部位や進行度などの腫瘍側要因および肥満、開腹歴などの患者側要因だけでなく、術者の経験、技量を考慮して決定する」とあり、LAPは治療オプションの1つという捉え方です。結局、OP派の先生は、negative試験なのでガイドラインでの位置づけは変わらないという意見、LAP派の先生はOSが同程度なので標準的治療と言えるという意見で分かれ、今までの状況と変わらないでしょう。臨床試験に登録されるのは良好な患者が多いため、サンプルサイズを慎重に設定しないと、イベント不足となり非劣性を検出できません。かと言って、この成績では数万例規模の試験にならないと非劣性は示せないと思うので難しいところです。

坂本:非劣性マージンはどのくらいに設定されていますか。

寺島:1.366です。イベントが少ないことは予想されていたので、大きく取っていますね。

室:解析はイベント数ベースと時期のどちらだったのでしょうか。

佐藤 (武):時期で設定していました。5年生存率を80%で計算していましたが、91.8%という極めて高い成績になったため、イベント不足になってしまいました。

室:イベントが十分matureしていないことは分かっていたと思うので、解析前にこの結果も予想がついた可能性はありますよね。

佐藤 (武):確かに、イベント不足のため時期を延ばすいう選択肢もありました。ただ、そうすると手術とは関係なく死亡する人が増えてしまうため、予定通り解析しました。
 LAPの有用性についてはこの試験で結論が出ると考えられていたのですが、結果はイベント不足でした。寺島先生が仰ったように、非劣性を示すためには数万例規模の試験が必要となり現実的ではありません。したがって、OS曲線は重なっていることから、手技を磨いた医師がケースバイケースでLAPを行うというスタンスでいいのではないでしょうか。

寺島:欧米のデータとは大きく異なり、OSが非常に良好だったことは特筆に値しますね。

佐藤 (武):LAP群の開腹移行率が5.5%と非常に低いので、極めて高い質で行われていると思います。

寺島:OSのサブグループ解析で、cN2やBMI25超の症例ではLAP群が不良だったことには注意が必要かもしれません。直腸もLAP群でやや不良ですが、これは試験開始が2004年で直腸に不慣れであったためで、現在であればこの成績は変わると思います。

室:本試験の臨床的解釈としては、腹腔鏡下手術も重要な選択肢の1つになるというのが、大勢の認識ではないかと思います。その一方で、同様の試験が胃癌や食道癌でも計画されており、類似した結果(イベント不足でnegativeな結果)になるのではないかと危惧されます。

寺島:胃癌では、主要評価項目をRFS (relapse-free survival) に変更しました (#4017)。ただ、それでもイベント数が足りないと考えられるため、検討する必要があると思います。

Lessons from #3577

  • 本試験はイベント不足で、LAPのOPに対する非劣性を示せなかったが、OS曲線はほぼ重なっていたことから、LAPはstage II/III大腸癌に対する重要な選択肢の1つと考えられる。
  • ただ、cN2やBMI25超の症例へのLAPには注意が必要である。

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