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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 D2リンパ節郭清がほとんど行われない米国では、INT0116試験により胃癌切除後患者に対する補助化学療法としての化学放射線療法の有効性が示された1)。しかし、D2リンパ節郭清施行後の補助化学療法として、放射線療法が生存延長に寄与するかは明らかではない。

 ARTIST試験は、D2郭清術を受けた胃癌患者に対する術後補助療法としての化学放射線療法の有効性を検証した第III相試験である。今回、最終解析としてDFS、OSのアップデートとバイオマーカー解析を含む探索的なサブグループ解析が報告された。

対象と方法

 対象は、D2郭清が行われたpStage Ib~IV (M0) の胃癌患者である。補助化学療法として、XP療法を6コース行う化学療法群 (XP群) と、Capecitabine (1,650mg/m2/day) + 放射線療法 (45Gy/5weeks) とその前後にXP療法を2サイクルずつ行う化学放射線療法群 (XPRT群) とに、pStageと術式を層別因子として1:1に無作為に割り付けられた (図1)

図1

 主要評価項目は3年DFS (disease-free survival)、副次評価項目はOS、有害事象、探索的バイオマーカー解析であった。3年DFSをXP群50%、XPRT群62%と仮定し、検出力80%、両側α=0.05、登録期間4年で、448例227イベントが必要とされた。

結果

 2004年11月~2008年4月に登録された458例が、XP群228例、またはXPRT群230例に無作為に割り付けられた。ベースラインの患者背景は、年齢中央値がともに56歳であり、PS、原発部位、pStageなどで両群に差を認めなかった。また、治療完遂割合はXP群75%、XPRT群82%であった。

 アップデートした時点 (141イベント) での3年DFSは、XPRT群で良好であるものの両群に有意差を認めなかった (HR=0.740, 95% CI: 0.520-1.050, p=0.9222) (図2)。また、OSは130イベントが発生したが、両群に明らかな差を認めなかった (HR=1.130, 95% CI: 0.775-1.647, p=0.5272) (図3)。なお、再発形式は、XP群で有意に局所再発が多かった (13% vs. 7%, p=0.033)。

図2

図3

 DFSについての探索的なサブグループ解析では、リンパ節転移陽性やLauren分類Intestinalの集団で、XPRT群が良好な傾向にあった (図4)。また、バイオマーカー解析として、腫瘍組織を用いたHER2、MET、EGFR、p53、FGFR2、MLH1、E-cadherinの解析を行ったが、明らかな効果予測因子とはならなかった。

図4

結論

 XPRT群はXP群と比較してDFSの有意な延長を認めず、依然として補助化学療法はD2切除後の標準治療であると考えられた。ただ、病理学的にリンパ節転移陽性の胃癌患者には放射線療法の上乗せ効果が期待されるため、現在ARTIST-2試験を行っている (図5)

図5

コメント

 韓国で実施された胃癌術後補助化学放射線療法の第III相臨床試験の最終報告である。全体の結果としてはnegativeで、D2郭清後に放射線治療は推奨されないことには変わりがない。今回サブグループ解析で、リンパ節転移陽性例、intestinal typeの腫瘍において放射線療法の有効性が示唆されていた。確かに納得できる結果ではあるが、最終解析とは言いつつcensoredの多い生存曲線を示されると、研究の信憑性に疑問を持たざるを得ない。さらに、今後予定されているARTIST-2試験 (術後補助化学療法; S-1 vs. SOX vs. SOX + RT) でも今回のサブグループ解析の結果はまったく反映されておらず、対象症例の絞り込みもなされていない。これでは、胃癌に対するD2郭清後の術後補助放射線療法の有効性は確実に否定されるものと思われる。また、会場から「ARTIST-2試験におけるreference armは何か」との質問に対しS-1単剤と答えていた。いつから韓国でS-1単剤が標準となったのだろうか。

 このような内容ではあるものの、会場からは多くの質問があり、欧米における放射線治療に対する関心の高さも伺えた。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Macdonald JS, et al.: N Engl J Med. 345 (10) : 725-730, 2001[PubMed

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