背景と目的
RAS 変異を有する切除不能進行・再発大腸癌は、抗EGFR抗体薬を用いた化学療法の対象から除外される。第III相試験の後ろ向き解析から得られた知見によると、KRAS G13D変異については、1st-lineやサルベージラインの治療においてCetuximabが有効ではないかという仮説が導き出されている1,2)。
化学療法抵抗性の設定では、KRAS G13D 変異例において、他のKRAS 変異例と比較して、PFS (4.0ヵ月 vs. 1.9ヵ月, HR=0.51, p=0.004) およびOS (7.6ヵ月 vs. 5.7ヵ月, HR=0.50, p=0.005) が良好であった1)。そこで、これらの知見を前向きに確認するために、KRAS G13D変異を有する切除不能進行・再発大腸癌におけるCetuximab単剤療法の臨床的意義を検討する本試験が計画された。
対象と方法
KRAS G13D 変異およびRECIST ver 1.1に基づく測定可能病変を有し、フッ化ピリミジン系製剤、L-OHP、CPT-11、Bevacizumabによる治療後、他に妥当な治療オプションがない症例に対して、Cetuximab単剤療法 500mg/m2隔週投与を行った。
主要評価項目は、治療開始から4ヵ月時点でのPFSである。統計学的デザインでは、Phase II Fleming single-stage designを用いて、検出力90%、片側α=0.05、閾値10%および期待値50%と設定すると、12例が必要とされた。帰無仮説は、3例以下が4ヵ月時点で増悪していない場合、否定される。
結果
12例のKRAS G13D変異症例が登録された。主な患者背景は以下のとおりである (表1)。
表1
主要評価項目である4ヵ月時点でのPFSは3例で得られた。RECIST判定でのPR症例はみられず、SDは4例であった。PFS中央値は1.9ヵ月、OS中央値は7.2 ヵ月であり、6ヵ月時点の病勢コントロール率は0%であった (図1)。
図1
Grade 3の皮疹は2例に発現したが、その他の予期されない有害事象は認めなかった。
結論
KRAS G13D変異を有する切除不能進行・再発大腸癌に対してCetuximab単剤療法の臨床的意義があるという仮説は棄却された。KRAS G13D変異を有する切除不能進行・再発大腸癌症例にはCetuximabを用いた治療を行うべきではなく、ほかの治療戦略を選択すべきである。
コメント
KRAS 変異が認められる切除不能進行・再発大腸癌症例には、Cetuximabは無効である。しかし、De Roockらは、Cetuximab治療例のなかでcodon 13の変異であるKRAS G13D変異の患者では、他のKRAS 変異がある患者に比べて、OSおよびPFSが長いことを報告した1)。また、Tejparらは、2つの第III相試験データのプール解析結果より、KRAS G13D変異型の患者におけるCetuximabの上乗せ効果の可能性を報告した2)。
一方、Peetersらは、Panitumumabを含む3つの第III相試験の後ろ向き解析から、それらの結果を矛盾していると報告しており3)、 臨床的には大変興味のある未検証の部分であった。
これらの結果を受け、本試験ではKRAS G13D変異例に対してCetuximab単剤治療を行い、前向きな解析を初めて実施した。結果は、残念ながらmetせず、KRAS G13D変異例に対するCetuximabの適応はないことが示された。
(レポート:坂井 大介 監修・コメント:佐藤 温)
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