背景と目的
大腸癌の発癌過程にはAPC 変異、KRAS 変異、TP53 変異などに加え、ミスマッチ修復 (MMR) 機構の不活性も関与している。ミスマッチ修復欠損は、DNAの繰り返し配列であるマイクロサテライト領域の修復機構の塩基配列に変化を起こし、マイクロサテライト不安定性 (MSI) となる。MSI-H (高頻度) は大腸癌における良好な予後予測因子であり1,2)、5-FU耐性であることも報告されている2)。
対象と方法
MSI-H 結腸癌の多施設後ろ向き研究として、2000~2011年の間に11施設で治療を行ったstage I/II/IIIの528例を対象にMSI-HのDNA解析を行った。本解析では、手術単独または術後補助化学療法 (5-FU、FOLFOX) のいずれかを実施したstage II/IIIのMSI-H 結腸癌について、再発予測因子の同定と治療効果を評価した。
結果
解析対象は433例であり、手術単独群263例、補助化学療法群170例 (5-FU: 51例, FOLFOX: 119例) であった (表1)。追跡期間中央値は35ヵ月であった。
表1
全体の12%で再発を認め、16%で死亡を認めた。Stage別再発率はstage IIでは手術単独群6%、術後補助化学療法群2%であり、stage IIIではそれぞれ23%、15%であった。
3年無病生存率 (DFS) は全対象で76%であり、手術単独群75%、5-FU群66%、FOLFOX群84%であった (図1)。
図1
表2に臨床/病理学的特徴、治療内容による多変量解析を、図2にstage別治療効果の解析結果を示す。
表2
図2
MMR遺伝子の変異を認めた (変異疑いを含める) 125例および変異を認めなかった274例の解析では、有意差を認めなかった。
結論
Stage III期のMSI-H 結腸癌では、5-FUとは対照的にFOLFOX療法の手術単独に対するDFS延長効果を認めた。また、高リスクstage II期症例でも同様の傾向がみられた。この研究は後ろ向き研究であるため、本結果を支持するための更なる研究が必要である。
コメント
MSIは大腸癌の発育・進展に広く関与し、MSIが高い (MSI-H) 大腸癌は再発率が低く予後が良好な癌であると言われている。また5-FU耐性であることも知られている。そこで本研究ではMSI-H患者を対象に、後ろ向き臨床病理的研究を実施した。
結果は上述の如く、切除後MSI-H大腸癌に対して5-FUはDFSを延長しないというこれまでの報告を支持するとともに、stage IIIではFOLFOX群が最も良い結果でHR=0.32 (p<0.001) であり、高リスクstage IIでも同様の傾向が認められた (HR=0.13, p=0.05)。しかし、限られた症例の後ろ向き解析であるため、十分な患者数を対象とした前向きの試験により検証することが望まれる。
(レポート:砂川 優 コメント・監修:小松 嘉人)
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