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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 PEAK試験は、切除不能進行・再発大腸癌における1st-line治療としてのmFOLFOX6 + PanitumumabとmFOLFOX6 + Bevacizumabの無作為化比較第II相試験である1)。今回、事前に計画されていたKRAS exon 3, 4、NRAS exon 2, 3, 4、BRAF exon 15変異の追加解析ならびにOSデータのアップデートについて報告された。

対象と方法

 PEAK試験のITT集団を対象に、サンガー法によるDNAシークエンシングならびにWAVE-based SURVEYOR Scan Kitを用いて遺伝子変異の有無を測定した。KRAS exon 3, 4およびNRAS exon 2, 3, 4遺伝子変異を有する患者をRAS 変異型、有さない患者をRAS 野生型とした (BRAF 変異例はRAS 野生型に含む)。

 また、データカットオフを2013年1月3日とする追加の生存調査を行った。

結果

 ITT集団 (KRAS exon 2野生型) の80%で追加の遺伝子変異解析が行われ、KRAS exon 3 (codon 59, 61) 変異4%、KRAS exon 4 (codon 117, 146) 変異7%、NRAS exon 2変異5%、NRAS exon 3変異6%、NRAS exon 4変異0%、BRAF exon 15変異6%であった。RAS 野生型の集団において、Panitumumab群88例とBevacizumab群82例の患者背景はバランスが保たれており、ITT集団との差も認めなかった。

図1

 主要評価項目であるITT集団でのPFSは、Panitumumab群で中央値10.9ヵ月、Bevacizumab群10.1ヵ月 (HR=0.84, 95% CI: 0.64-1.11, p=0.22) と有意差を認めなかったが、RAS 野生型では中央値13.0ヵ月 vs. 10.1ヵ月 (HR=0.66, 95% CI: 0.46-0.95, p=0.03) とPanitumumab群で有意に延長していた。逆に、RAS 変異型では中央値7.8ヵ月 vs. 8.9ヵ月 (HR=1.39, 95% CI: 0.73-2.64, p=0.32) と有意差を認めなかった。

図2

 OSは、ITT集団ではPanitumumab群中央値が34.2ヵ月 (イベント37%) と、Bevacizumab群の24.3ヵ月 (イベント55%) よりも有意に高値であり (HR=0.62, 95% CI: 0.44-0.89, p=0.009)、RAS 野生型では中央値41.3ヵ月 vs. 28.9ヵ月 (HR=0.63, 95% CI: 0.39-1.02, p=0.058) とPanitumumab群で良好な傾向にあった。

図3

 奏効率はRAS 野生型でPanitumumab群64%、Bevacizumab群60%と差を認めなかった。また、毒性プロファイルは既報と同様あり、RAS 野生型での有害事象による治療中止率はPanitumumab群24%、Bevacizumab群29%と同程度であった。

結論

 KRAS exon 2, 3, 4、NRAS exon 2, 3, 4野生型大腸癌における1st-line としてのmFOLFOX6 + Panitumumab療法はmFOLFOX6 + Bevacizumabと比較してPFS、OSともに良好な傾向が認められた。

コメント

 本演題では、PEAK試験の生検材料において、各種バイオマーカー別sub解析の結果が報告された。本試験に登録されたKRAS 野生型のうち80%の症例が追加解析された。

 主要評価項目であるITT集団のPFSは、Panitumumab群で中央値10.9ヵ月、Bevacizumab群10.1ヵ月と差を認めなかったが、RAS 野生型 (KRAS / NRAS ) では中央値13.0ヵ月 vs. 10.1ヵ月とPanitumumab群で有意に延長していた。逆に、RAS 変異型では中央値7.8ヵ月 vs. 8.9ヵ月と差を認めず、実数から行けばPanitumumab群が下に行くという結果となった。

 以上より、抗EGFR抗体薬に効果があるとされるKRAS 野生型の中に、効果の低い群としてNRAS 変異例の存在が示された。NRAS 変異は大腸癌の約3-5%に認められ、MRC COIN試験の後解析では、NRAS 変異例はKRASBRAFNRAS 野生型例と比較して予後不良であると報告された2)。本Updateにより、その傾向はPFSだけでなく、OSにも反映され、RAS 野生型では41.3ヵ月 vs. 28.9ヵ月、HR=0.63であり、Panitumumabにおいて良好な結果であった。

 今後は、KRAS 測定のみならずNRAS も測定し、効果の期待できないNRAS 変異例を除き、RAS 野生型を対象とした前向きの臨床試験での検証が望まれる。その前向きの試験結果があれば、実臨床において、効果の低い群に対し、高価な抗EGFR抗体薬の投与をやめるという診療方針の可能性もあると思われる。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Schwartzberg LS, et al.: 2013 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #446
  2. 2) Timothy S. Moughan, et al.: 2010 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #402

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