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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 CELIM試験は切除不能な肝転移を有する大腸癌患者に対し、術前補助化学療法としてのCetuximabとFOLFIRI/FOLFOXの併用療法の有効性を検討したオープンラベル無作為化比較第II相試験であり、主要評価項目である奏効率や肝切除率は既に報告されている1)。今回はCELIM試験における長期予後について報告する。

対象と方法

 CELIM試験の対象は切除不能な肝限局転移を有する進行・再発大腸癌で、Cetuximab + FOLFOX群とCetuximab + FOLFIRI群に無作為に割り付けられた。初めに8サイクルの化学療法が行われたのち肝転移の評価が行われ、切除可能であれば肝切除を施行した。一方、初回評価で依然として肝転移が切除不能な場合には、さらに4サイクルの化学療法を行った後に再び肝切除の評価を行った。肝切除後は6サイクルの治療が行われた。KRAS statusについては後ろ向きに検証された。本報告では、CELIM試験の副次評価項目であるPFS (progression-free survival)、DFS (disease-free survival)、OS (overall survival) の解析を行った。

結果

 2004年12月~2008年3月に登録され適格となった111例がCetuximab + FOLFOX群56例、Cetuximab + FOLFIRI群55例に割り付けられた。

 R0切除率は、Cetuximab + FOLFOX群38%、Cetuximab + FOLFIRI群30%、奏効率はそれぞれ68%、57%であった (表1)

表1

 OS中央値はCetuximab + FOLFOX群35.8ヵ月 (95% CI: 28.1-43.6)、Cetuximab + FOLFIRI群29.0ヵ月 (95% CI: 16.0-41.9) と両群同等であった (HR=1.03, 95% CI: 0.66-1.61, p=0.9) (図1)。また、PFS中央値はCetuximab + FOLFOX群11.2ヵ月 (95% CI: 7.2-15.3)、Cetuximab + FOLFIRI群10.5ヵ月 (95% CI: 8.9-12.2) と同等であった (HR=1.18, 95% CI: 0.79-1.74, p=0.4) (図1)

図1

 一方、R0切除例と切除不能例の予後を比較すると、R0切除例のOS中央値は53.9ヵ月 (95% CI: 35.9-71.9) であった一方、切除不能例は21.9ヵ月 (95% CI: 17.1-26.7) と、R0切除例で有意に良好であった (p<0.001) (図2)。また、PFS中央値も、それぞれ15.4ヵ月 (95% CI: 11.4-19.5)、6.9ヵ月 (95% CI: 5.9-8.0) とR0切除例で良好であった (p<0.001) (図2)。また、R0切除例の5年生存率は46.2% (95% CI: 29.5-62.9) であった。

図2

 なお、R0切除例におけるDFS中央値は9.9ヵ月 (95% CI: 5.8-14.0) であったが、転移巣数10個超の患者では特に予後が悪かった (5個未満、5~10個、10個超での比較、群間のp<0.001)。

 また、KRAS status別の奏効率は、KRAS 野生型70%、KRAS 変異型41%であった (表1)。OS中央値は、KRAS 野生型36.6ヵ月 (95% CI: 25.3-47.8)、KRAS 変異型27.4ヵ月 (95% CI: 15.7-39.1) (HR=1.41, 95% CI: 0.84-2.34, ns)、PFS中央値はそれぞれ11.9ヵ月 (95% CI: 8.2-15.6)、9.9ヵ月 (95% CI: 4.5-15.2) であり (HR=1.29, 95% CI: 0.82-2.04, ns)、いずれもKRAS 野生型で良好な傾向がみられたものの、有意差は認められなかった。

結論

 切除不能な大腸癌肝転移に対する術前Cetuximab併用化学療法により、良好な長期予後が得られることが明らかとなった。本試験はサンプルサイズが小さく検出力が足りないものの、FOLFOX/FOLFIRIの効果は同等であった。また、KRAS 野生型ではKRAS 変異型よりも良好なPFS/OSが得られる可能性が示唆された。

コメント

 切除不能進行・再発大腸癌肝転移例に対して、術前・術後にFOLFOX/FOLFIRIとCetuximabを併用することの有用性が長期成績からも確認された。一方、術後補助化学療法では標準的化学療法にBevacizumabやCetuximabを併用することの有用性は否定されている (AVANT試験2)、NSABP C-08試験3)、NCCTG intergroup N0147試験4,5))。また、2013年米国臨床腫瘍学会では、切除可能な肝転移例の術前・術後に施行する化学療法へのCetuximabの上乗せ効果も否定された (new EPOC試験)。腫瘍を縮小して切除術に持ち込むことを目的とした術前化学療法と、微細な転移巣を生体の免疫系によって排除できる程度まで縮小させて治癒に導くことを目的とした術後補助化学療法とでは、薬剤の役割が異なることを示す結果であるといえる。また、あらためてCetuximabが静細胞効果のみを有することが臨床的に示されたと考えられる。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Folprecht G, et al.: Lancet Oncol. 11(1): 38-47, 2010 [PubMed][論文紹介]
  2. 2) Andre T, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncolory®: abst #3509
  3. 3) Wolmark N, et al.: 2009 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncolory®: abst #LBA4
  4. 4) Alberts SR, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncolory®: abst #CRA3507
  5. 5) Goldberg RM, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncolory®: abst #3508

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