演題速報レポート

背景

 根治切除後の胃腺癌または胃・食道接合部腺癌 (GEJ) 患者に対する術後5-FU/LV療法は、手術単独と比較して予後を改善することが無作為化比較試験のメタ解析によって示されている1)。ITACA-S trialは、このエビデンスより5-FU/LV療法をcontrol armに設定し、さらに強力な術後補助化学療法としてFOLFIRI後のDocetaxel (TXT) + Cisplatin (CDDP) の逐次治療 (experimental arm) の優越性を評価する多施設無作為化オープンラベル比較第III相試験である。

対象と方法

 対象は根治切除後の胃腺癌またはGEJ患者であり、experimental arm [FOLFIRI (CPT-11 180 mg/m2 day 1, LV 100 mg/m2 day1-2, 5-FU 400-600 mg/m2 day1-2, 14日毎; 4 サイクル)→TXT + CDDP (TXT 75 mg/m2 day 1, CDDP 75 mg/m2 day 1, 21日毎; 3 サイクル)] とcontrol arm [5-FU 400-600 mg/m2 day1-2, LV 100 mg/m2 day1-2, 14日毎; 9サイクル] の2群に無作為割付けした。

 適格基準は、D1以上のリンパ節郭清を伴う根治切除が施行された胃またはGEJ (pN+またはpT2b-3-4) で、術後3-8週に初回治療が行われた症例である。
 主要評価項目はDFS (disease-free survival) である。control armに対して再発/死亡の20%低下 (HR 0.80)、両側5%有意水準および検出力80%より、必要イベント数 (初回再発または死亡) を636件とした。

結果

 2005年2月から2009年8月までにイタリアの123施設で登録された1,106例のうち1,100例がITT解析対象となった (experimental arm 562例、control arm 538例:重大な登録違反にて脱落6例) 。全症例の75%にD2以上のリンパ節郭清が行われた。
 治療の完遂率はexperimental arm 76%、control arm 86%であり、有害事象による治療中断はexperimental arm 15%、control arm 6%であった。

 重篤な毒性 (grade 3/4) はexperimental armで高頻度に発現し、血液毒性では好中球減少 (46% vs. 9%) 、白血球減少 (17% vs. 0.8%) 、貧血 (0.9% vs. 0.2%) など、非血液毒性では下痢 (10% vs. 3%) 、嘔吐 (16% vs. 3%) などがcontrol armに比べ有意に高値であった (いずれもp<0.001) 。

 観察期間中央値48ヵ月 (範囲: 35.5-62.2ヵ月) の時点において初回再発または死亡は558件であり、死亡は440例であった (experimental arm 39%、control arm 40%) 。DFS (HR: 0.98, 95%CI: 0.83-1.16, p=0.83) および全生存期間 (HR: 1.00, 95%CI: 0.83-1.20, p=0.99) に有意差は認められなかった。

結論

 FOLFIRI-TXT/CDDPのexperimental armは、胃癌補助化学療法として許容できるものであったが、5-FU/LV療法と比較してDFSおよびOSの有意な延長は認められなかった。

コメント

 胃癌の術後補助化学療法では、ACTS-GCの結果からS-1が標準治療薬として確固たる地位を築いている。ただし、国外で施行された胃癌に対する術後補助化学療法の臨床試験を確認していく必要はある。
 本研究は、5-FU/LVをcontrol armとして、experimental armであるFOLFIRI-TXT/CDDP逐次治療の優越性を証明しようとしたものである。仮説では「FOLFIRI-TXT/CDDP逐次治療が術後再発/死亡を20%減少させる」とした。欧米では胃癌に対する術後補助化学療法に関する大規模なランダム化比較試験がないため、メタ解析の結果から手術単独と比較して延命効果を認めた5-FU/LVがcontrol armに採用されている。5-FU/LVと比較して毒性の強いレジメンがtest armに用いられたが、驚くほど両群間にDFSとOSについて差を認めなかった。なお、有害事象による治療の中断率はFOLFIRI-TXT/CDDP群では15%と、5-FU/LV群の3倍であり、実臨床では完遂が一層困難なレジメンと思われる。
 なお、ここで示されている両群の生存率は、MAGIC試験 (2005年 米国臨床腫瘍学会年次集会 #4001) 2, 3)の結果よりはるかに良好であり、登録症例の75%にD2郭清が施行されていたことがその要因と考えられる。欧米でも、胃癌手術のqualityが向上していることをうかがわせる成績である。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) GASTRIC Group, et al.: JAMA. 303(17): 1729-1737, 2010
  2. 2) Cunningham D, et al.: 2005 nnual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4001 [学会レポート]
  3. 3) Cunningham D, et al.: N Engl J Med. 355 (17): 1729-1737, 2006 [論文紹介]
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