四国がんセンターは、愛媛県における「地域がん診療拠点病院」の指定を受けており、県内はもちろん、四国各県や中国地方からもたくさんの患者さんが受診されます。2006年4月に新築移転したばかりで、新病院の病床数は405床。
前回は、同院の「がん相談支援・情報センター」を紹介しましたが、今回は「緩和ケア病棟」と「通院治療室」について、それぞれの体制や稼動状況、緩和ケアも含めたがん診療における医療連携の仕組みなどを紹介します。
Q. 「緩和ケア病棟」開設の経緯についてお教えください。
A: 旧病院には緩和ケア病棟はなく、1ヵ所の病棟内に緩和ケアの患者さんを優先的に受け入れるベッドを2床設けていただけでした。そのうちに、その病棟は緩和ケアの患者さんで埋まってしまい、緩和ケア病棟のようになっていたのです。そこで、新病院への移転に際して25床の緩和ケア病棟を新設しました。
緩和ケアの病室は広くゆったりとしており、手元の操作で開閉できる電動カーテンを備え付けました。全ての病室にはウッドデッキがあり、庭にでることができます。
|
|
|
Q. 「緩和ケア病棟」はどのような位置づけになっているのですか。
A: 近年、緩和ケアの位置づけは「終末期の対応」から「診断時から化学療法と同時に行うべきもの」へと変わってきています(図1)。より良い化学療法を実施するためには、緩和ケアが大切になってきています。ですから、「緩和ケア病棟」も治療開始の患者さんから、退院された患者さんまでのバックアップベッドという感覚であり、最後を迎えるところではないと位置づけています。病床25床に対してギリギリの看護師配置で対応しているため、現実には数床の空床を残しています。看護師にとっては厳しいのですが、空床があるので在宅患者さんの急変にはいつでも受け入れ可能です。
緩和ケアを地域で支える仕組みの核になるのが「緩和ケア病棟」、というコンセプトなので、緩和ケア病棟のスタッフは在宅患者さんも全て把握していなければなりません。定期的に電話を入れて在宅患者さんの状態を把握し、入院のタイミングを計っています。しかし、緩和ケア病棟は「専門的緩和ケアの導入と適応」、「在宅移行までのワンクッション」、「在宅患者のバックアップベッド」という位置づけです。退院支援・在宅移行を積極的に手がけ、「緩和ケア病棟に行ったら近々再び家で生活できる」、「緩和ケア病棟に移って帰ったら家でも安心できる」場所であるという啓蒙を行っています。
また、緩和ケアチームの活動内容はデータベースに入れ、スタッフ間で情報共有ができるシステムになっています。ただ、緩和ケア外来については人手が足りず、当院に入院歴のない緩和ケア外来の患者さんの把握が手薄になっているので、外来も緩和ケア病棟と同じようなシステムにすることが課題です。
|
|
緩和ケア病棟スタッフステーション |
|
図1. 緩和ケアの必要な時とは
Q. 「緩和ケアチーム」はどのような構成になっていますか。
A: 専任医師(緩和ケア医)1名、兼任医師2名(消化器内科医、麻酔科医)、ホスピスケア認定看護師2名、がん性疼痛看護認定看護師1名、がん看護専門看護師1名のほか、臨床心理士1名、薬剤師1名で構成されています。
Q. 「緩和ケアチーム」の活動について教えてください。
A: 緩和ケアチームは週に1回、合同回診を行っています。当院の緩和ケアチームは麻薬処方を主治医に代理で処方することが認められており、またマニュアルも作っているので、回診中に痛みで苦しんでいる患者さんがいれば、その場で主治医に連絡し速やかに麻薬の導入を行うこともあります。
以前は、ボルタレン座薬(50mg)を1日4回使って「コントロール良好」と書かれているような例や、麻薬の処方と同時に消炎鎮痛剤を中止してしまう例、フェンタニル10mgを3枚も貼っているのにレスキュー量がオプソ10mgのまま継続されているような例なども見受けましたが、現在はチームで監視しているため、そのような初歩的な間違いはなくなりました。
Q. 緩和ケアにおける他科および他施設との医療連携はどのように行われていますか。
A: 他科、他施設との連携のために、週1回程度の割合で(不定期に)合同カンファレンスを行っています。
退院後の緩和ケアは、できるだけ麻薬施用者免許を持つ先生にお願いします。その際には、当院で行っている緩和ケアの方法を伝えています。ただ、市の中心部を離れると麻薬施用者免許を持たない先生にお願いせざるを得ないことも多く、そのような場合は当院の緩和ケア医が、麻薬処方と調整を担当し、共同で患者さんを診ていくかたちになります。麻薬施用者免許を返上するかかりつけ医の先生方が増えており、何とかしないといけないと感じています。
Q. 外来化学療法(通院治療)の体制と稼動状況はどのようになっているのでしょうか。
A: 当院では、2002年10月に「化学療法通院治療部検討委員会」を立ち上げ、2003年4月に「通院治療室」を開設しました。当初は15床で稼動していたのですが、2006年4月の新築移転を契機に25床(ベッド15台、リクライニングチェア10台)に増床しました(写真)。
通院治療室のスタッフは、室長(呼吸器内科医)、当番医3名(オンコール)、各科の主治医、がん化学療法看護認定看護師3名、パート看護師2名、薬剤師3名(併任)という構成です。何らかのトラブルが起きたときは基本的に主治医が対応しますが、外来治療中で手が離せないときのために、当番医を決めているわけです。ただし、大半はがん化学療法看護認定看護師が対応するので、アナフィラキシーショックの発症時や嘔吐がひどいときに呼ばれるくらいで、普段は自分が当番医になっていたことも忘れるくらいです。
2005年4月〜2006年3月の化学療法件数は5,770件でしたが、2006年度は7,000件を超えると思われ、現在は1日平均約35人の治療を行っています(表)。昨年は乳癌が55%、消化器癌が30%という比率でしたが、今年はFOLFOX、FOLFIRIの症例が増えたため、消化器癌の治療件数が大幅に増えています。FOLFOXについては、今までFOLFOX4を行っていましたが、現在は新規症例に対しては、mFOLFOX6を行っています。
|
|
|
表. 2006年度総件数
Q. 通院治療室における認定看護師の仕事内容を教えてください。
A: がん化学療法看護認定看護師は化学療法のレジメンや副作用にも精通しているので、患者さんへの薬剤指導や副作用対策の説明も認定看護師が中心になって行っています。外来化学療法の初回施行時にはオリエンテーションを行い、入院期間中の副作用発現状況も考慮して、今後の対応などについて指導します。また、外来治療が始まってからも、副作用のチェックやその対策を一緒に考えています。
通院治療室では、血管確保も認定看護師が行っています。さらに、認定看護師は医師とともに2ヵ月に1回程度、スタッフ教育も行っています。
|
|
面談室 |
|
Q. 外来化学療法における受療の流れをご説明ください。
A: 通院治療室は完全予約制で、前日の午後3時までに主治医がオーダーを入れることになっています。予約が入ると、薬剤科で処方監査をした後、薬剤の準備を行います。
当日、患者さんは受付を済ませた後、検査科で採血を受け、検査結果が出てから主治医の診察を受けます。検査結果は30〜40分で出るようになっています。
主治医は、施行が可能と判断したらオーダー入力とともに、薬剤科と通院治療センターに電話連絡を入れます。薬剤科では薬剤師が安全キャビネット内で抗がん剤の無菌調製を行い、別の薬剤師が確認を行ったうえで通院治療室に払い出します。
通院治療室では認定看護師がカルテをチェックし、問診を行った後にルートを確保し、投与を開始するという流れになっています。
図2. 外来化学療法のオーダーの流れ
消化器内科医からのコメント 谷水正人先生
|
当院では、「緩和ケア病棟は最後を迎えるところではない」、ということを最初から謳っています。「緩和ケア病棟に来ても帰宅できるし、帰宅後も何かあれば24時間対応で受け入れるので安心してください」と患者さんにお話しています。
病棟は半分は有料個室で運用しています。緩和ケアチームは精神科医が転勤してしまったこともあり、チーム加算は取れていません。ただ、緩和ケアチームの医師には主治医に代理で麻薬処方が許されており、マニュアルから外れている場合には直ちに訂正することも認められています。現在は、不適切な処方はほとんどなくなりました。 |
消化器内科医からのコメント 仁科智裕先生
|
当院では、レジメンの提出を義務づけていますが、審査機構はまだできていません。ガイドラインが作成されている癌種については標準治療を行うことが基本ですが、ガイドラインができていない稀な癌種については、院内のカンファレンスで各グループが独自に決めている状態です。今後はきちんとした審査機構をつくり、レジメンを整理する必要があると考えています。 |
がん化学療法看護認定看護師からのコメント 森田純子看護師
|
通院治療室では治療件数が急激に増えてきていますが、リスクの高い患者さんが多く、医師が常駐しているわけでもないので、看護師5人では人手が十分とはいえません。入院とは違い、クリティカルパスを作成するのも困難です。患者さんの相談ごとも多く、1サイクル目では出てこなかった問題が、サイクルを重ねるうちに出てくることもあり、それをクリティカルパスでは網羅しにくいのです。もっと患者さんと話ができる時間やスペースがあればいいなと思います。
通院治療室では看護師もルート確保を行っていますが、穿刺が困難な症例が増えているので、欧米のようにポートが普及すればいいと思います。
|
インタビュアーからのコメント 瀧内比呂也先生
前編において四国がんセンターが、患者中心の地域に密着した医療を展開していることを紹介させていただきました。後編のトピックである緩和医療においても同じことがいえます。谷水先生のコメントにもあるように「緩和ケア病棟は最後を迎えるところではない」ということをポリシーとして、患者が安心して在宅医療と緩和ケア病棟を選択できるような工夫がなされています。緩和医療においても患者本位の医療が実践されていると思いました。これまでは病院側の都合で提供できる医療が決定されていましたが、これからは患者本位の医療がどれだけ提供できるかが問われてくると思われます。同じことが外来化学療法についてもいえると思います。欧米のオンコロジーナースのように3名の化学療法認定看護師が血管確保も行っていました。このように看護師の持つ専門性が活かされたシステムは、今後多くの施設の目指すところとなると思います。四国がんセンターは、まさしく図1に示されるがん治療と緩和ケアのバランスがとれた施設といえるでしょう。