第6回 独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター[前編](取材日:2006年12月11日)
 Interviewer: 瀧内比呂也先生(大阪医科大学)

お話しを伺った方々



谷水正人先生 | 消化器内科医


菊内由貴さん | がん看護専門看護師

がん相談支援・情報センター概要

開設 2006年4月
スタッフ センター長 1名(医師・併任)
室長 1名(医師・併任)
専任看護師 3名
ソーシャルワーカー 1名
事務職員 2名
臨床心理士 1名(週2日)
受付時間 8時30分〜16時30分
相談方法 来訪による対面面談(面談室にて)、電話相談

 四国がんセンターは、愛媛県における「地域がん診療拠点病院」の指定を受けており、県内はもちろん、四国各県や中国地方からもたくさんの患者さんが受診されます。病床数は405床。「通院治療室」や「緩和ケア病棟」を備え、患者さんの視点に立った医療サービスの提供を目指して、院内の組織再編および医療連携のシステムづくりに取り組んでいます。
その要は「がん相談支援・情報センター」。退院調整、在宅療養中の支援、地域医療機関との連携など、患者さんと家族のあらゆる悩み・相談事に対応しています。2006年4月に松山市郊外に新築移転したばかりの同院を訪ね、がん相談支援・情報センターの開設の経緯や役割などについてお話を伺いました。

Q. 「がん相談支援・情報センター」開設の経緯を教えてください。

A: 当院は2002年3月に旧地域がん診療拠点病院の指定を受けていましたが、新しい連携拠点病院構想に基づいて、2006年4月の新築移転を契機に「相談支援機能を有する部門」に相当する「がん相談支援・情報センター」を立ち上げました。
もともと、当院には地域連携に積極的に取り組もうという風土があり、個別にさまざまな取り組みが行われていました。その始まりは、1999年にスタートしたFAX紹介です。紹介件数の増加に伴い、2002年10月には「医療連携室」を立ち上げ、専任職員が配置されました。2003年4月には「通院治療センター」と「緩和ケア外来」ができ、それぞれに専任看護師を配置して「緩和ケアチーム」が始動しました。さらに2004年4月に「WOC(創傷・オストミー・失禁)外来」、「リンパ浮腫外来」、「セカンドオピニオン対応」が始まり、同年10月には「よろず相談室」が設置され、パートの医療ソーシャルワーカーが配置されました。
このように、それぞれ異なる経緯で設置され、個別に行われていた業務を統合し、「がん相談支援・情報センター」として再編したわけです(図1)。各部門の人と機能を1ヵ所にまとめたことの効果は大きく、内部のやりとりがスムーズになり、仕事は何倍にも膨らんできています。
スタッフ構成は、センター長1名(医師・併任)、室長1名(医師・併任)、専任看護師3名、 ソーシャルワーカー1名、事務職員2名、臨床心理士1名(週2日、現在は病棟活動が中心)の計9名です。これだけの人員を相談支援センターに配置できた例は、全国でも類がありません。

がん相談支援・情報センター

図1. がん相談支援・情報センター


Q. 「がん相談支援・情報センター」の活動内容を教えてください。

A: 当センターは、(1)医療相談・よろず相談、(2)退院調整、(3)在宅療養支援、(4)情報発信・情報提供、(5)医療連携という5つの役割をもっています。その中でも最も多いのが相談対応業務で、電話相談と対面相談を行っています。電話相談には、全国から問い合わせがきています。「医療相談」は看護師が対応するような治療に関するものが多く、「よろず相談」はソーシャルワーカーが受けるような経済的な問題が中心です(表)。相談の大半はがん看護専門看護師の知識の範囲内で対応できますが、患者さんの病状から治療に関する意見を求められる場合は、「セカンドオピニオン外来」を紹介します。  「退院調整」は、入院時点からセンターのスタッフと病棟スタッフが情報を共有化して、退院が決まった時点でスムーズに帰宅できるようにするシステム、「在宅療養支援」は外来通院中あるいは在宅療養中の患者さんのさまざまな要望に対応するシステムで、電話サポートなども行います。
「情報発信・情報提供」では、パンフレットなどによる患者さんへの情報公開のほか、勉強会や公開講演会も行っています。「医療連携」の業務として、セカンドオピニオンの紹介・予約・取次ぎ、かかりつけ医との連携支援などがあります。今後は地域の医療機関や訪問看護ステーションとの勉強会、相互理解のための情報交換会なども行っていきたいと考えています。 当センターは病院のすべての機能を見通している部署であるため、対内的には院内の連携やコーディネート、対外的には治療開始から退院後まで24時間365日の安全を患者さんに保障できるようサポートすることが目標です。

表. 2006年7〜9月における相談対応の内容別推移


Q. 「退院調整連携パス」とはどのようなものなのでしょうか。

A: 以前は、退院が決まった段階で帰宅の環境が整わず、慌てるケースが少なくなかったので、治療中から同時並行で必要なものを手配しようというのが「退院調整」の基本的な考えです。さまざまな理由で退院が困難な患者さんに対して、「がん相談支援・情報センター」が病棟スタッフと協同して早期から介入することを目指しています。転院の手配、在宅療養に際してはかかりつけ医、訪問看護・介護など、院外との「医療連携」の機能も兼ねており、また院内の緩和ケアチーム、NST、各エキスパートナースなどとの連携も必要です。
多くの部署と情報を共有化するため、2006年の10月から退院調整連携パス(フェーズ1〜6)を導入しました。フェーズ1はスクリーニング用で、カルテに貼り付けてあり、入院患者さんの中から調整が必要な患者さんを抽出します(図2)。さらに、フェーズ2で患者さんの状況を把握し、フェーズ3で院内カンファレンス、フェーズ4では合同カンファレンスを行って退院後の意思統一を図り、フェーズ5、6は退院および退院後の目標・計画を共有します(図3)。退院調整連携パスでは、フェーズ2からの作業が大変です。 病棟スタッフからの情報提供が非常に重要になるため、スタッフの理解を得るために説明会を開いたり、何度も病棟に出向いて説明しました。また、パスの作成にあたっては、あまり負担をかけずに必要な情報が収集できるよう工夫しました。

図2. フェーズ1(退院調整連携パス) [拡大表示]

※図2は近日中に四国がんセンターのホームページ(http://ky.ws5.arena.ne.jp/NSCC_HP/top_page/)に掲載予定です。

図3. 退院調整連携パス フェーズ1〜6 [拡大表示]

※図3は近日中に四国がんセンターのホームページ(http://ky.ws5.arena.ne.jp/NSCC_HP/top_page/)に掲載予定です。

Q. 「セカンドオピニオン外来」についてご説明ください。

A: 2004年4月からセカンドオピニオン外来を無料でスタートし、セカンドオピニオンの保険点数化(紹介側)に対応するため2006年5月から有料化(1回1万円、30〜60分)しましたが、それにもかかわらず相談件数は増えています。
対象は、医療機関でがんもしくはその疑いがあると診断された患者さん、またはその家族で、治療に関する相談に限ります。「がん相談支援・情報センター」で予約を受け付け、相談者の都合と相談に答える専門医のスケジュールを調整します。
当日は、診療情報提供書と検査資料(X線フィルム、血液検査データなど)の提出をお願いしているので、今かかっている医師に内緒でというわけにはいきませんが、最終的に正しい判断を行う上では必要なことだと考えています。

Q. 地域の医療機関と連携するために、また地域の医療レベルを高めるために、どのような試みをされていますか?

A: 1998年頃から、松山の医師会では病診連携委員会を立ち上げ、市内の医療連携マップを作成しました。そのマップは今も稼動していますし、そのほかにも訪問看護ステーションや元のかかりつけ医がどの程度まで対応が可能かといった情報をコツコツと蓄積しているところです。松山市内には在宅専門医がいるので、そういう医師に頼めばきちんと対応してもらえますが、すべての施設で麻薬の取り扱いに慣れているわけではありません。当院は地域の医師を育てる役割も担っているため、なるべく入院前からのかかりつけ医と連携していきたいと考えております。元のかかりつけ医に戻すには、連携先のレベルを上げないと、本当の意味の連携にはなりません。もちろん、かかりつけ医の先生のなかには、こちらの期待以上に対応してくださる先生もいらっしゃいます。もし、患者さんの容態が悪化した場合は、すぐに当院で受け入れ可能です。
 地域の医療レベルアップを図るため、医師会にも研修会、勉強会の立ち上げを積極的に働きかけました。松山市医師会では「在宅医療懇話会」が2001年に立ち上がり、訪問看護ステーションのスタッフも参加して年に3回、在宅医療の勉強会が行われています。また、コアとなる医師育成と意見交換のための「在宅医の会」が年3回開催されるようになり、難渋した症例の検討会なども行われています。

消化器内科医からのコメント 谷水正人先生

 相談支援センターは、患者さんの「相談のはけ口」ではなく、「解決の窓口」です。そのため、相談を聞くだけでお茶を濁すのではなく、そこから適所につないでいかなければなりません。相談窓口を開いて専任者を置いただけでは、相談支援センターとして機能しないのです。
そこに来たら必ず問題が解決することが、相談支援センターの使命です。患者さんの満足のいく回答ができるように、院内の連携、外部との連携がきちんとできるようにしておく必要があります。

がん看護専門看護師からのコメント 菊内由貴看護師

 「退院調整」の業務では、入院患者さんに関する病棟スタッフからの情報提供がとても重要になりますが、病棟は医療補助に手一杯で、退院調整に必要な情報を得て在宅をサポートしようという意識が希薄になりがちです。そのため、「がん相談支援・情報センター」では病棟スタッフの理解を得るためのさまざまな努力が必要になってきます。その一環としてクリティカルパスを導入したわけですが、それにより病棟看護師の仕事が増えるので、「なんでそこまで・・」と躊躇されることもあります。何度も話し合って「退院時の困難が避けられれば病棟スタッフも楽になる」ということを理解してもらい、意識を変えていく必要があります。
 県外からの入院患者さんも大勢いらっしゃいますが、受け入れ先を探すのが難しい地域もあり、必ずしも全員の受け入れ先を確保できていません。今後は他県の医療状況も把握していく必要があると思います。

インタビュアーからのコメント 瀧内比呂也先生

 今回訪問した四国がんセンターは、以前から地元医師会と密接に連携を取り合っておられたため、がん患者の在宅ケアシステムが大変うまく機能しているなと思いました。また以前からあった医療連携室やよろず相談室などを統合させて、がん相談支援・情報センターを全国に先駆けて誕生させたのは、患者の視点に立ったがん医療の提供をモットーとしておられる谷水先生のご尽力の賜物だと思いました。また退院調整パスを有効活用することにより、退院困難ながん患者の問題解決に向けて、がん相談支援・情報センターと病棟のスタッフが協同で介入する工夫がなされていることは本当にいいシステムだと思います。2006年6月にがん対策基本法が成立し、その基本理念の1つに“がん患者が適切ながんにかかわる医療を受けることができるようにすること”が謳われています。四国がんセンターでは、まさしくがん対策基本法の基本理念に基づいた患者中心のチーム医療が実践されているわけです。今回の訪問で強く感じたことは、こうした地域連携・院内連携の強い結びつきがあってこそ、はじめて患者中心のがん医療を提供することが可能になるということです。四国がんセンターの取り組みは本当に多くの病院の手本になると思います。


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