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倦怠感  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)

 癌患者における倦怠感(cancer-related fatigue: CRF)はわれわれが一般的な日常生活において経験する典型的な倦怠感とは異なり、癌治療、または癌そのものに伴う症状である。そのため、安静や睡眠によってその症状が軽減されないことが特徴的である1,2)。CRFは多くの癌患者にみられる症状であり、その発現率は60%を超える3)。特に、放射線療法を受ける頭頸部癌や婦人科癌の患者においてはさらに多くの患者にその症状発現が認められている4)。そして、外来患者における調査では悪心や嘔吐、疼痛といった症状よりもCRFのほうが日常生活に影響していると答える患者は58%にも上る5)。このCRFの原因は多岐にわたり、癌化学療法だけでなく、癌種や病状の進行、栄養不良、電解質異常、睡眠薬等の薬剤、入院等による生活環境の変化、あるいは他者との人間関係までもが原因として挙げられる。例えば、癌化学療法による消化管毒性(下痢や悪心・嘔吐)が強く出現した場合には電解質異常や経口摂取低下に伴う栄養障害により生じ、NivolumabやSunitinib等による甲状腺機能異常によってもCRFが惹起される。また、造血器腫瘍のように疾患自体による造血障害も原因となる。このようにCRFは多くの癌患者にみられ、QOLにも影響する症状であるが、その症状の訴えは患者の主観的な感覚によるところが大きく、評価が難しい。医療従事者による客観的な評価と実際の症状の程度には相違がみられる可能性があることを念頭に置き、症状の評価を行う必要がある。

症状

 生理学的には動力出力を維持できない状態を指し6)、「気力の消失」、「消耗感」、「億劫である」、「重い」等が典型的な症状として挙げられるが、その症状の訴えは患者主観的な表現によるところが多い。また、表現される症状は患者ごとに多様であり、明確な症状の定義は存在しない。一方で、注意力や集中力、学習能力の低下、短期記憶の乱れも知られており、それらは精神的疲労として表現される7)

発現機序

 一般的な「疲労」に関する研究は担癌状態の患者に対して行われたものではないため、多要因が複雑に交絡、影響しているCRFに対してはその研究結果をそのまま外挿するのは難しい8)。そのため、これほど頻度が高い症状にもかかわらず、その発現機序自体は明確になっていない。現在、その発現機序としてさまざまな推測がなされている中で、CRFは1次性倦怠感(Primary Fatigue)と2次性倦怠感(Secondary Fatigue)に大別される8,9)表1にCRFの分類とその原因を示した。1次性倦怠感は脳内5-HT(セロトニン)やその受容体数の変化、迷走神経求心性活性化、ATP(アデノシン三リン酸)の代謝変化、視床下部-下垂体前葉副腎皮質系不全、サーカディアンリズムの崩壊およびサイトカイン調節異常等により生じ、2次性倦怠感は電解質異常、薬剤性、代謝異常、病状による影響、抑うつ、睡眠障害等が原因とされている。

表1:CRFの分類とその原因
表1
発現時期と経過

 CRFは肉体的、および精神的な症状も存在することから、病期によらず発現することが知られている。特に癌化学療法由来のCRFはNadir期付近で最も増悪する可能性が高い。すなわち、癌罹患の診断時から生じ、治療開始から治療中、あるいは病気の進行に伴い変化し、治療完了後も数ヵ月または数年間続く可能性もある8)。また、その原因は病期とともに変化していくことも知られており、その原因は一つであるとは限らない10,11)。従って、対症療法を行いつつ、現在のCRFの原因となっている因子に対する対策を立てていく。一方で、Nivolumabをはじめとした免疫チェックポイント阻害剤使用時において、倦怠感は副腎皮質機能不全や甲状腺機能低下症等の免疫関連有害事象(irAE)の初期症状である可能性も視野に入れ、経過をみていく必要がある。

Grade分類

 有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版における定義を表2に示した。CRFとしての定義はないため、疲労「Fatigue」や倦怠感「Malaise」が該当する。

表2:Grade分類(有害事象共通用語規準v5.0日本語訳JCOG版より引用)
表2
発現しうるレジメン

 レジメン別のCRF発現頻度を表3にまとめた。

表3:レジメン別のCRF発現頻度
表3
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