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低マグネシウム血症  監修:谷口浩也先生(国立がん研究センター東病院)

 マグネシウム(Mg)は体内において種々の酵素補助因子として生体代謝調整に重要な役割を担う金属であり、酵素の活性化、神経・筋の鎮静化、骨形成などに関与している。低マグネシウム血症(低Mg血症)は、血清Mg濃度が低下する病態であり、消化器癌治療においては抗EGFR抗体であるCetuximabやPanitumumabに特徴的な有害事象である。抗EGFR抗体による低Mg血症のほとんどは軽度であり、重篤化することは少ない。しかし低Mg血症が重篤化すると不整脈などの心電図異常を認めることがあり、抗EGFR抗体の安全使用のためには低Mg血症の適切なマネジメントが極めて重要である。プラチナ製剤であるCisplatinによっても低Mg血症を発現しうるが、ここでは抗EGFR抗体による低Mg血症について概説する。

症状と発現機序

症状

 低Mg血症の主な症状は、悪心、食欲不振、脱力、振戦、傾眠、テタニーなどである。軽度の低Mg血症では症状は現れにくく、定期的に血清電解質の確認を行わなければ見過ごされる可能性が高い。重度の低Mg血症では痙攣、頻脈、不整脈などの症状が現れることがある1)

発現機序

 腎臓の遠位尿細管に存在するTRPM6(transient receptor potential melastatin 6)の阻害によるMgの再吸収抑制が原因と考えられている。TRPM6は尿細管腔側から細胞内へMgを取り込むイオンチャネルの一種でありMgの再吸収に関与する(図1)2,3)。TRPM6の発現は上皮成長因子(epidermal growth factor: EGF)によって調節されているため、抗EGFR抗体であるCetuximabとPanitumumabによってTRPM6の発現が低下し、Mgの再吸収が抑制されることで低Mg血症が発現すると考えられている。

図1:EGF/RAS/Raf経路によるTRPM6の転写調節(文献を参考に作図)
図1
発現時期と経過

 抗EGFR抗体による低Mg血症の発現時期中央値はCetuximabで57日(範囲:3〜418日)4)、Panitumumabで63日と、ともに約60日である5)。投与回数の増加に伴い発現頻度が高くなる傾向にある。国内の特定使用成績調査の報告によると、Cetuximabによる低Mg血症の発現頻度は10.8%(All Grade)、Panitumumabによる低Mg血症の発現頻度は16.9%(All Grade)、4.0%(Grade≧3)であった。硫酸Mg補正液などによるMgの補正により治療を継続できる場合もあるが、それでも低Mg血症が改善しない場合は、適宜、抗EGFR抗体の休薬を行う必要がある。

Grade分類

 Grade分類は主にCTCAE v4.0を用いることが一般的である(表1)
 施設によりmg/dLとmEq/Lの2通りの表現があり、数値を交互に換算する必要がある。mg/dLはmEq/Lの1.2倍に相当する(Mgは2価の陽イオンであるため、1 mmol/L=2 mEq/L)。

表1:低Mg血症のGrade分類(CTCAE v4.0)
表1
発現しうるレジメン

CetuximabとPanitumumabを含む全レジメンで低Mg血症を発現しうる。
報告によって発現頻度が大きく異なるが、これは血清Mg値のモニタリング頻度の違いが関与していると考えられる。
Cetuximabを含むレジメン(Cetuximab単剤 or CPT-11+Cetuximab or FOLFOX+Cetuximab or FOLFIRI+Cetuximab
Panitumumabを含むレジメン(Panitumumab単剤 or CPT-11+Panitumumab or FOLFOX+Panitumumab or FOLFIRI+Panitumumab

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