ESMO 2011 演題速報レポート Stockholm, Sweden September 23-27, 2011
2011年9月23日〜27日にスウェーデン・ストックホルムにて開催されたThe European Multidisciplinary Cancer Congress 2011 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌
Abstract #6005/6099
化学療法不応の切除不能進行・再発大腸癌患者に対するTAS-102 + BSC療法の多施設共同無作為化二重盲検比較第II相試験:主要結果と効果予測バイオマーカー (TK1およびTP発現) に関する報告
#6005
A Multicenter, Randomized, Double-Blind, PhaseUof TAS-102 (A) plus Best Supportive care (BSC) Versus Placebo (P) Plus BSC in Patients (pts) With Chemo-therapy refractory Metastatic Colorectal Cancer (mCRC)
Yasutoshi Kuboki, et al.
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#6099
The Value of Thymidine Kinase 1 (TK1) and Thymidine Phosphorylase (TP) Expression as Predictive Factors With the Treatment Efficacy of TAS-102, a Novel Antitumor Agent, in Patients (pts) With Metastatic Colorectal Cancer (mCRC)

Yoshito Komatsu, et al.
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Expert's view
サルベージライン大腸癌化学療法における期待の新規代謝拮抗剤TAS-102
仁科 智裕 先生 国立病院機構四国がんセンター
消化器内科
 大腸癌における代表的な代謝拮抗剤である5-FUの主な作用機序はTS阻害とその結果生じるDNA阻害であり、5-FUの耐性および/または治療無効は、TSが過剰発現することがひとつの要因であると考えられている。TAS-102はDNAに取り込まれ、TS阻害とは別の作用抗腫瘍効果を発揮するFTDと体内でFTDの分解を阻害するTPIを配合した薬剤であり、非臨床試験において5-FUに対する低感受性株および耐性を獲得した腫瘍株に対しても効果が示されており、期待がもたれていた。
 フッ化ピリミジン、CPT-11、Oxaliplatinが無効のKRAS 変異型やサルベージラインにおける抗EGFR抗体薬 (KRAS 野生型) の無効症例においては、有効な薬剤がないのが現状である。しかし、PS良好で化学療法の適応となる症例は少なからず存在し、有効な新規薬剤が切望されている。そのような患者対象に対して、TAS-102は主要評価項目のoverall survivalにおいてHR0.56と予後を改善させるpromisingなデータを示しており、非常に期待が持てる。
 TAS-102の主な毒性は血液毒性であるが、発熱性好中球減少症も4%台であり、QOLを損なう非血液毒性である倦怠感、下痢、吐き気は認めるもののGrade 3/4の頻度は少なく忍容性は良好であり、サルベージラインで用いる薬剤としては使用しやすいと考えられる。 残念ながら今回の検討 (#6099) ではTKIやTPは有効な効果予測のバイオマーカーにはならなかったが、主試験のサブ解析 (#6005) ではKRAS 変異型の症例により効果を示すなど、興味深いデータも示されている。今後行われるであろう第III相試験で主要な結果が再現されるとともに、本剤が有効な症例を選択するバイオマーカーが示されることが切に望まれる。
背景と目的
 TAS-102は、トリフルオロチミジン (trifluorothymidine: FTD) とその分解を阻害するチミジンホスホリラーゼ (thymidine phosphorylase: TP) 阻害剤を1対0.5の比率で配合した経口の新規ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤である。チミジル酸合成酵素 (thymidylate synthase: TS) 阻害に加えて、TK1 (thymidine kinase 1) によるリン酸化によりDNAに取り込まれることで、TS阻害とは別のメカニズムで抗腫瘍効果を発揮する。
 切除不能進行・再発大腸癌患者18例を含む進行固形癌患者21例を対象にした第I相試験において、本剤の推奨用量は70mg/m2/day、disease control rate (DCR) は52.4%であることが示された。本試験は切除不能進行・再発大腸癌の標準化学療法に不応であった患者を対象に、TAS-102の有効性と安全性を評価した無作為化比較第II相試験である。
 今回は主要結果 (#6005) とTAS-102の効果予測因子としてのTK1およびTPの発現レベルの解析結果 (#6099) を報告する。
対象と方法
 Fluoropyrimidine、Irinotecan (CPT-11)、Oxaliplatin (L-OHP) を含む2レジメン以上の治療歴のある切除不能進行・再発大腸癌患者を対象として、TAS-102 + BSC群 (以下TAS-102群) とplacebo + BSC群 (以下placebo群) に2:1の割合で無作為に割り付けた。TAS-102 (70mg/m2/day) は1日2回、day 1-5とday 8-12に投与し、4週を1サイクルとして繰り返した。
 主要評価項目はoverall survival (OS)、副次的評価項目はprogression-free survival (PFS)、response rate (RR)、DCR、KRAS 変異の有無による有効性とした。
 免疫組織化学染色 (Immunohistochemistry: IHC) はセントラルラボにて実施した。TK1とTPの細胞質内発現は2名の病理学者が盲検下で測定し、各種発現レベルと有効性との関係性を評価した。
結果
 2009年8月から2010年4月までに172例が登録され、169例で評価可能であった (TAS-102群: 112例、placebo群: 57例)。

■主要結果 (#6005)
 両群間の患者背景に有意な差はみられなかった。前治療は3レジメン以上がTAS-102群で84.8%、placebo群では77.2%であり、両群ともL-OHP、CPT-11レジメンの治療歴は100%であった。Bevacizumabの使用歴はTAS-102群で77.7%、placebo群は82.5%、抗EGFR抗体薬は各々63.4%、63.2%であった。
 OSの中央値はTAS-102群が9.0ヵ月、placebo群は6.6ヵ月 (HR=0.56, 95% CI: 0.39-0.81, p=0.0011) であり、TAS-102群でOSが有意に延長した (図1)
図1
 PFSの中央値はTAS-102群が2.0ヵ月、placebo群が1.0ヵ月 (HR=0.41, 95% CI: 0.28-0.59, p<0.0001)、DCRはTAS-102群43.8%、placebo群10.5% (p<0.0001)、RRは各々0.9%、0.0%であった。
 TAS-102群におけるGrade3/4の主な有害事象は好中球数減少50.4%、白血球数減少28.3%、倦怠感6.2%、下痢6.2%、悪心4.4%、発熱性好中球減少症4.4%であり、治療関連死はみられなかった。

 KRAS statusは149例で確認可能であり、KRAS 野生型および変異型の比率はTAS-102群で54例 (54.5%) / 45例 (45.5%)、placebo群で24例 (48.0%) / 26例 (52.0%) であった。
 KRAS 野生型におけるOS の中央値はTAS-102群が7.2ヵ月、placebo群が7.0 ヵ月 (HR=0.70, 95% CI: 0.41-1.20, p=0.191) であり、TAS-102群の優位性は認められなかった (表1)。一方、KRAS 変異型においてはTAS-102群が13.0ヵ月、placebo群が6.9ヵ月 (HR=0.44, 95% CI: 0.25-0.80, p=0.0056) と統計学的な有意差を示した。PFSはKRAS 野生型 (p=0.0004)、変異型 (p<0.0001) ともにTAS-102群で有意に優れていた。
表1
■バイオマーカー解析 (#6099)
 本試験の登録症例のうち150例 (TAS-102群: 99例、placebo群: 51例) で、IHCによるTK1およびTPの解析が可能であった。TK1 H-scoreの中央値は両群とも115.0、TP H-scoreの中央値はTAS-102群で12.5、placebo群では15.0であり、両群に有意な差は認められなかった。
 TK1とTPの発現レベルと臨床転帰 (OS、PFS) を表2、3に示す。両群ともに相関は認められなかった。
表2: Relationship between OS and TK1/TP expression
表3: Relationship between PFS and TK1/TP expression
結論
 TAS-102は従来の標準化学療法に不応な切除不能進行・再発大腸癌患者においてOSを有意に改善し、忍容性も良好であった。現在、KRAS 遺伝子解析を含めた第III相試験が計画されている。
 一方、本報告ではTK1およびTP発現とTAS-102治療における臨床転帰との相関は認められなかった。今後のフォローアップデータをもとにさらなる解析を行い、TK1およびTP発現の効果予測因子としての評価を確認すべきであろう。
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